第32-2話 〜誘うものゼルヴァ〜
テントからの匂いに気を取られる門番。
その機を逃さず、音を殺し屈み寄るリアン。
「今だ」
と、剣を抜き斬り掛かった。
その門番は後ろから斬られ、悲鳴さえ上げずにこの世を去った。
そこにしゃがみ込み、もう一度テントを数えるリアン。
テントは八個あった。ざっと四十人程か。
(やれる!いや、やってやるさ!)
そう無言で頷くリアンが、駆け出した。
まずは手前のテントからと、狙いを定めその中へと斬り込んだ。
勢いのまま、テントの入り口の布を捲った。
あとは出たとこ勝負だ。
どの道このままでも生きてさえいけないのだと腹を括った。
リアンと目が合う奥の兵士、だがまだ距離が遠い。
それならと、手前の兵士が振り向く前に斬り飛ばしていった。
「ふんっ!」
力の限り剣を振った。
並んだ二人の首を飛ばした。
それを見て声を上げようにも音が出ないでいる兵士を、躊躇わず斬った。
それは、脳天を割られその机に突っ伏した。
そして残る一人も、難なく息の根を止めた。
(へへ、これなら)
と、意気揚々とするリアンは、続けて次のテントへと向かった。
やはり無造作に中に入るリアン。
今度は食している最中だった。
さっきより容易いとばかりに、あっという間にその四人をあの世へと送り出した。
そして、次のテントへ、またその次へと順調に刈り取っていくのだった。
「はあ、はあ、はぁ、さすがに堪えるな……」
と、一息つくリアンに、漸く不穏を告げる兵士たちの声が聞こえた。
その時リアンは既に七つのテントを平らげていた。
正に飯時様さまであった。
そこへ、
「何処だ、賊の居場所を探せっ」
と、怒鳴る声が聞こえた。
(あいつの声だ。あいつだけは……)
さらなる闘志が漲る。
怖いものは何も無い。
ズズズ、
と、声のする方に向かってテントを切り裂き、その切れ目から外に飛び出すリアン。
「!?きさまが賊か?覚悟しろ」
と、仇の兵士アルディスが叫んだ。
その声に反応して飛び掛かる兵が四人。
その四人をやれば、残るはオルディスだけだった。
(簡単だな?あと少しだ)
と、慢心するリアン。
そんな思いこそが、自身の足を掬わせた。
それでも二人は斬り伏せた。
そして、あと二人と剣を振り上げた時、強い衝撃が背中から首へと駆け抜けた。
ガク、
と、ムチ打ちのような状態で数歩前に出るリアン。
そして、そのまま前によろけ、そこに居た兵士がリアンを袈裟に斬り下ろした。
致命では無いものの、腕から血が溢れる。
気付けば、そこだけで無く全身に切り傷があった。
激しい戦闘にそれを、忘れていただけだった。
さすがに今のは効いたと見え、片膝をつき腕を押さえるリアン。
ここまでか?
とはリアンは思わなかった。
(まだやれる、やってやるさトコトンな!)
不屈こそがリアンの身体を、心を、形成しているのだ。
決して今だけではない、これまでの人生——そのものがだ。
屈むリアンの脳天を、もう一人の兵士が狙う。
それをクルンと転がり、躱すリアン。
立ち上がり様に、リアンの腕を斬った兵士の股間を斬り上げた。
「うぎゃあぁぁっ」
腹の底からの呻き声を上げ、失神と共に絶命する。
それを見た残りの兵士、
「うわー!」
恐怖に奇声を発するものに戦い方など、叩き込まれた修練さえ忘れさせた。
喪心に真上から振り下ろす剣。
剣を手にして、最初に習う様なその斬撃。
既に四十人を斬ったリアンにとっては、攻撃ですら無かった。
その兵士が迫ってくるのを待たずして、自ら踏み込みその懐を深々と斬った。
あとは大本命、仇のアルディスだけだった。
不敵な笑みとは、まさにこの男のことを指す言葉だった。
全身を、赤い鬼の如く染め上げたリアンのその姿にさえ余裕を見せた。
「まあ、ここまでやるとは大したものだ褒めてやろう。だが初めに俺に奇襲をかけなかった不運が——」
全身に圧倒的な覇気を纏うアルディス。
「不運か、それなら七年前にお前に貰ったさ。今から返してやるよ」
リアンの勇ましい声が、破れたテントを突き抜けた。
それにアルディスが、
「七年前?だからどうしたぁ」
と、言い終えるや否や地を蹴って飛びリアンに迫った。
リアンの目前で、突如身体を捻り蹴りを繰り出すアルディス。
何も出来ないリアンは、突っ立ったままだ。
「ぐふぅわっ」
それを腹に受けすっ飛ぶリアン。
破れかけたテントが、辛うじてそれを受け止める。
ビリビリ、
と、重さに傷を広げるテント。
リアンが地に落ちるのを許さないアルディスが、リアンの髪を掴む。
「なんだもうお終いか?俺の期待を返してくれよっ」
と、腹に一発拳を入れ、今度は別のテントの方へと投げ飛ばした。
(くそ、これじゃ何も変わらないじゃないか)
あの日、父を切り裂き、幼かったこの身を掴み上げた、あの太い腕。
それが今もまだここにあるのだった。




