第31-3 〜娘に贈るもの〜
剣を手にしていたら、間違いなく斬られていただろう。
セリナにさえそう思わせる程、逼迫したエリシアの顔があった。
アークセントリオンの重み。
自身の心、思いなど捨てなくてはならない。
掲げた神の理念。
民を救うための理想と犠牲。
それを、心を殺して父は......
いや、それよりも総帥は——
胸を締め付けた。
正しいと思って来た事。
自身の役割をこなしているという自負。
それらがガタガタと、音を立てて崩れていった。
今や、セリナの中の甘えが消えた。
民の安らぎのために、自身の心を殺す。
それが父の跡を継ぐ、
『アークセントリオン』
足らしめることだと、そう気づくのだった。
歩を退き、そして二人の顔を見据えて跪くセリナ。
「このヴァルテリウス、拝命した役割を履き違えておりました。故カイル閣下の志を鑑みて、その責務の重きを背負って行く所存であります」
握るその拳が震えるのが、手に取るように分かった。
「セリナ……」
そう呟いて、涙するエリシア。
(カイル、やはり貴方の子ね)
心の中で天を仰いだ。
「では、今あなたがすべきことは?」
エリシアがそう問いかけた。
「今私がすべきはかのベラへの尋問とその後の処遇。そして何よりクリスや妹の無事を信じることです」
と、エリシアの望んだ答えを出した。
そして、いつしかクリスと呼び方までもが戻っていた。
「ありがとう、セリナ。それは同時に、アベラルドがクラウディアから受けた、伝言も認める事にもなるわね?」
とエリシアは繋げた。
その意味に気づいたセリナがアベラルドに、
「申し訳ありませんでした、司祭様。クリスからの言伝を持っていたのに、私はそれを……」
と、頭を下げ釈明した。
「いいえ閣下、出過ぎた真似を……それとユトレーデルのどの辺りかだけでも聞いていれば良かったのじゃが」
と、自身の不甲斐無さを疎むアベラルド。
「そんなの無理よ、たとえ地図があってもあんな所に、騎馬一騎探すのは至難よ」
と、先ほどそれを無謀にもしようとしたセリナを横目に見るエリシア。
その目は既に笑っていた。
それに、俯き恥じるセリナだった。
これで、クラウディアの出奔の汚名も晴れることとなったのである。
十代の頃に過ごした地、ユトレーデルを目指して奔走するクラウディア。
そして、その山道一本違う所を歩くリアン。
二人が同じ道を行き、そして出逢っていれば——
——そこに悲劇は起こらなかっただろうか
しかし、そればかりは人の決める定めではないと......
完




