第31-2 〜娘に贈るもの〜
妹のリヴィアと、部下であり友でもあるクラウディア。
その二人に技量で劣っている、と勝手に思い込み逆恨みをしているセリナ。
そして、そのリヴィアをクラウディアが救出に向かった。
それもこのフェルクイエスの秩序を乱してである。
昨夜、一度は治ったものの、一夜明けたらまたこれだった。
「総帥の懐刀であるフェンガーリアが、これでは示しがつきません。今回は私が行かなければっ」
と、頑固の極みのセリナ。
しかしその主張は正しい。
だからこそ、手に余すアベラルドだった。
(さて、どうしたものかのぉ)
珍しく途方に暮れ窓の外をみるのだった。
それをよそ目に、
「今すぐ発つ。隊を十余りすぐに仕立てよ!」
と、配下に告げるセリナ。
それは四百を超える兵を引き連れて向かうと言うものだった。
『ひと』としてのアベラルドの言葉が届かない。
ましてや司祭の言葉など、アークセントリオンのセリナにとっては、そよ風程の効力も無い。
打つ手無しのアベラルドだった。
そこへ、
「いい加減にしなさい、セリナ!」
と、アベラルドの胸を撫で下ろす声がした。
はっ!?
と、焦るセリナは胸に手をあて礼を尽くした。
しかしそれに応えず、
「セリナ、無理にその立場を貫くと言うのなら、今すぐその任を解きます」
と、エリシアの厳しい言葉。
黙ったまま、エリシアを見つめるセリナ。
エリシアには、セリナの心の内が分かっていた。
四百以上の兵、それはクラウディアに対しては脅しにもならない。
しかし、抑止力にはなるだろう。
そうすればセリナは、直接クラウディアと剣を合わせずに済む。
今この時でさえ、クラウディアと戦うことを、彼女を斬るという危険を冒したくないセリナであった。
それをエリシアは手に取るように理解していた。
「総帥、それが叶わないのであれば、せめてマルセルの方だけでも」
と懇願するセリナ。
その抑えきれない、やり場のない気持ちを理解しているエリシア。
——セリナ
戸惑いが、エリシアを締め付けた。
最高指導者として、
『心に流されている』
と受け止められるようなことは言えない。
どうしたものかと思案に耽った所で、再びあの男の出番だった。
「閣下、恐れながら、この司祭アベラルドのお話をお聞き願えますか?」
と、腰を落としながら礼を尽くした。
そんなアベラルドに、
「はい、心得まして……」
と、頬を強張らせるセリナだった。
アベラルドの伝えたかったこと、それはカイルの思いだった。
「元々マルセルは心を一つに、このフェルクイエスを、その理念と共に興した同志だった。また、彼は時の流れ、人の移り変わりに飲まれたのも事実じゃ」
セリナからドアへと視線を移すアベラルド。
そして、ここはフェルクイエス。
赦しの神を祀り、その心を受け継いでいく者の集まりの場だということを、カイルは身を持って示していた。
度重なるマルセルの弱さを赦し続けて......
その思いをここで踏みにじることはさせないと言うのであった。
「しかし、その甘さがサイノゼールを」
殺した、と言いたかったセリナ。
そこへ鋭いエリシアの声が、
「甘えるなっセリナ!エレスミア様の教えを貫いたカイルの重責を、そのアークセントリオンの名を何と心得るのかっ!!」




