第31-1 〜娘に贈るもの〜
薄気味が悪い。
この夜叉でさえ、そう思い辺りを見回した。
晴れ渡る空からの陽は強いはずなのに、この森はどこも淡い色しか使われていなかった。
ここは、アラコールとも、ヴァルデ・ソンブラとも違った異様な空気が流れていた。
「ユトレーデル——聞きしに勝る不気味さよ」
先ほどまでやや汗ばんでいたのに、冷めた景色が心にまで寒さを吹き込んでくるようだった。
一本の木陰から、そのテオドラの馬を止める人影が現れた。
それに反応したテオドラが、
「止まれ!」
と、手を差し上げ、後続の混乱を避けるように停止させた。
「おお、やはりテオドラ殿がお越しか?これで、あの赤獅子を尾行した甲斐があったと言うもの」
と、引きつる眉が和らぐその影。
常に死を見つめながらのリアン追跡だった。
そこにこの夜叉の登場だ、力が抜けるのも当然と言えた。
「カッシヤヌス殿はいつもお一人でこんな危険な真似を?」
少し戒めるようなテオドラの目は、どこか恍惚としていた。
「はは、お恥ずかしい。ちと出過ぎた真似をしてしまいまして」
と、はにかむカッシヤヌス。
陽の光よりもその爽やかさに伏せがちになるテオドラの顔。
「あ、いえ!?隊長がご無事であれば、何も……」
と、アダムノアに見せてやりたい程の”乙女テオドラ”がそこに居た。
「それより、かの者の隠れ家は、この先にありまして」
一気にテオドラを任務に引き戻す彼の言葉。
「……はっ!承知致した。あとはこのテオドラにお任せを!」
その精一杯の言葉に、女の表情を仕舞い込む彼女だった。
気取られないように馬を降り、ゆっくりと歩み寄るテオドラ。
その後に三人の騎士が続く。
(ここか!?こんなとこに人が......まことか)
まだ信じられないテオドラが後ろに手を振る。
ザザカサカサ、
六つの足に砕かれる枯葉。
シャッ、
高台に飛び乗る騎士。
背を低く屈み歩き、入り口のような蔦の絡みあった所を見つけた。
振り返り顔を見合わす。
そして示し合わせ、その蔦に絡んだ木戸らしき物を蹴飛ばした。
穴の中のウサギに抵抗する術は無い。
呆気なく引きずり出される、二つの白ウサギ。
殺伐とした林に響き渡る、テオドラの名乗り。
そして、
「ほぉ、リヴィアとはどっちだ?」
その薄笑いが空気を一層重いものへと変えていくのだった。
——初夏の便りはここにもあった
汗をかき、その衣装の重ね着に辟易する者が、このセレスタリアに居た。
「落ち着け、セリナよ。お主の妹のためじゃぞ!」
あの笑顔はどこへ行ったのか、必死なアベラルド。
「例え司祭様といえども、今回ばかりは」
と、肩を押さえるアベラルドの手を振り払うセリナ。
彼女には人に知られたくない思いが隠されていた。




