第3-3話 〜魔王と赤獅子〜
——空へと打ち上がる白い花火
その中から風の唸りを纏い飛び出すレイキス。
それは引き寄せられるように自然に、クロエの首筋へピタりと吸い付いていった。
クロエは動けない。
動けば雪がまた赤く染まると、それだけがクロエの頭に浮かぶのだった。
顎を上げたまま剣を手放し、降伏の意を示した。
(魔王と恐れられた私が、こんなにも簡単に手玉に取られるなんて)
これでは仮に、リナと襲い掛かったところで結果は同じではないか?
改めて、この『伝説』とも言える化け物に驚愕するクロエだった。
動けないクロエの視界に、横たわるリナの姿が入り込んだ。
リナと綴った旅の思い出。
吸血鬼となった後も、寄り添いあった唯一の友……
あの高い木の上にひとつ——
星が灯った。
「殺さないの?それともなぶるのがお好みかしら」
リナの元へ、あの星の横に送るなら早くしろとクロエ。
「いいや……お前は吸血鬼を何人も殺してるな?」
「それが」
吐き捨て、わざと苛立たせるクロエ。
「手を貸せ、その方が早い」
予想に反するリアンの言葉。
(何!?さすがに分からないわ)
と言葉の意味を理解する由もないクロエだったが、
「いいわ、協力するわ」
咄嗟に生き延びることを選び直すクロエだった。
そしてもう一つ気掛かりがあり、
「あなた、さっき私を見て何か言いたそうだったわよね?」
と、リアンの一瞬の躊躇い、それを見逃さなかったクロエが追求した。
「ああ、あれか……いや、お前の瞳が何となく似ていたからさ」
照れを隠すのをやめたリアンが笑い気味に答える。
それが逆に揶揄われてる気がして、
「なにそれ、まさかあんたを振ったどこぞの女にでも似てたのかしら?」
と皮肉が口を突いて出た。
びゅっ!
と、レイキスが再び喉元に突き立てられる。
「二度とあの人を茶化すようなことは言うな、分かったな!」
首を竦めるのがやっとのクロエは、
「わ、分かったわ。悪かったわよ」
そう答えるしかできなかった。
『クロエ=エルネスト』
赤い髪に赤い瞳、そして赤い剣。
人を斬る前から血に染まった——
赤き魔王。
そして、彼女もまた吸血鬼にも恐れられた存在だった。
——赤
赤い……花?
またしても、リアンの記憶が呼び覚まされる……
この赤い花は、野花なのか?
それとも、誰かが持って来たのか?
小さなその赤い花びらは、可憐で透き通っていた。
「なんて名前なんだい?」
「うーんとねぇ、分からないの」
「え?」
「ミリアも知らないって言うの」
「そっか、ミリアでも分からないとなると、付けてあげないとな?」
「え!?」
「名前をさ」
「名前を?」
「そうさ、俺たち二人だけの、この花の呼び名をさ」
「うわぁ、いいかも!?私たちだけの名前ね」
「ああ、君が呼んでくれ。それが新しい名前だ」
「うーん!?リセル、リセルがいいわ!」
「……リセルか?いい名だ。きっとこの花も喜んでるさ」
「えへへへ、そうかしら!?そうね、きっと喜んでくれるわよね」
——リセル、リセル
誰かが優しく呼んでいる。
夢の中で……
そして目覚めてからも小さく小さく、聞こえないほどの声で呼び続ける。
——それが優しさと分かった時
リセル、
——リセル、私たちのリセル……
どこか遠い未来で、
ひとりの少女に——
そう聞こえるのだった……
完




