第30-1話 〜新たな黒い灯火〜
顔が半分に割れた月が、渇いた荒野に立った。
そして月を囲むように、星たちはその丘を駆け巡った。
互いに競い合うかのように彩る星々は、重い空に宝石を散りばめていった。
そんな星空に幕を掛けるように土煙を上げる荷馬車の一団があった。
こんな夜中に疾走する荷馬車なんて?
風に酔いを拐われた者たちは振り返り、その行き先を思い、互いに顔を見合わせた。
——ヴァルデ・ソンブラ
そのどんよりとした名に荷馬さえ辟易し、嘶くことも諦めただ打たれるままに駆け続けた。
見守ることにさえ見限りをつけ、雲の隙間に入り込んだ神。
それに縋るものたちは鈍い色の祈りの声を上げ、サングィナトーレスの礎を築かんとした。
教団と言うヴェールの下に、覗かせる牙が目が光っていた。
砦に迫った。
すると先頭の荷馬車が松明を三回、大きく右周りに円を描いた。
それに応えて、ギギギと開く厚い石門に吸い込まれるように荷馬車は入っていった。
夜中にも関わらず笑顔を浮かべる、司祭ジョアモズがそこにいた。
今や彼は、研究室長と呼んだ方が相応しい人物と言えた。
「おお、来たわ来たわ」
待ち望んだモノが続々と運び込まれる。
所狭しと並べられた木箱からは、保存用の氷が解けたのだろうか水が滴っていた。
それに混ざる赤いものを見て、
「処置もろくにできぬのか」
と訝るジョアモズだった。
そして大きな箱には目もくれず、中振の箱の前に立ち、
「これじゃ、これを早よ開けよ!」
と、急かした。
ギコ、ギギ、
と打ちつけた楔を抜く音。
そんな数瞬をも待てないのか、蓋に手をかけ引きはがすのだった。
「おお」
と、感嘆の声に、
(これが本当に人の大きさか)
と胸の中で嬉々とするジョアモズだった。
そう、それは先日リアンに打ち取られたワンヴュエズ一味の亡骸だった。
大きな箱には、比較的身の崩れた亡骸が複数詰め込まれていた。
そして、小ぶりの箱には比較的綺麗な、或いは主要な者の亡骸が個別に納められていた。
そこへ、
「どうじゃ、ようやっと完成しそうか?ジョアモズよ」
と声をかける者がいた。
この地で自分にそんな口を聞くのは誰だ?と思い振り返るジョアモズ、
「おお、これは大司教様、ご機嫌麗しゅう」
そこに立っていたのはアダムノアだった。
「こんな時間にこんな所まで来させられて、麗しゅうも何もなかろうが」
不機嫌をその鼻の向きで表すのだった。
テオドラという厄介者が出兵して、気が休まると思った矢先だから当然ともいえた。
「今回の検体は何がなんでも成功させるのだ!と総督のお言葉だ。分かっておるな?」
と、またしても偉ぶるアダムノア。
「はは、それは勿論弁えております」
と、ジョアモズが腰を低くする。
「で、あれはできておるな?」
ジョアモズも木箱さえも視野に収めず冷たい言葉を放つアダムノアだった。




