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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
3章 幕開け編

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第29-1話 〜連携と分断〜


「おはようピュチェリ、おはようベラ……あ?クロエも」

うつ伏せからの起きがけに、元気に挨拶するおチビクロエ。

その頬にはシーツの線が刻まれていた。


この頃になると毎朝のおチビの魔王イジリにも、ようやくベラも慣れてきたようだった。


しかし、毎朝揶揄われるクロエも、

「あんた、あんまり私に舐めた態度を取ってると……」

と、今朝はとくに機嫌が悪いのか冷たく言い放つのだった。


そして……


「ぐわぁはは、やめてクロエ。くすぐったいよー。ごめん、ごめんてばぁ」

と、堪らず笑いながら謝るおチビがいるのだった。

実のところは、寝起きのおチビが魔王の一番のお気に入りのようだった。



そんな朝の日課を済ますと、

「少し散歩でもしてきます」

と、ベラは“おチビ”二人を引き連れ丘の方へと出掛けて行った。

すっかり打ち解け、そして信用されたベラ。

信じ合うという毎日が、足元を彩る野の草花が、今の彼女にとってはかけがえのない日々のエッセンスであった。


「ベラ、今日はどこで食べようか?」

と、母親に持たされた朝ごはんを、嬉しそうに見せびらかすおチビクロエ。

「まあ、今日はどんなお料理かしらね?」

手を後ろに組み、おチビの視線に合わせながら心底楽しみに微笑むベラ。

おチビと食べるその食事が彼女の心へ温かさを、もしも自分にも子が……

(こんな気持ちになれるなんて?)

そんなベラに束の間の幸せを与えていた。


「あ!?」

と、何かを思い出したのか?後ろを振り立ち止まるおチビ。

「どうしたの?クロエちゃん」

幼い子の不安とは人に移るものだった。

兎角、ベラのようなお人好しには……

「あのね、えっとね、クロエの分も持って来ちゃったの」

と、少し涙を浮かべるおチビ。

そんな些細なこともおチビにとっては一大事なのだろう。

そう思うとその小さな身体を、愛おしく抱きしめるベラだった。



そんな、心地よい朝の風景を壊すものがあった。


ガサガサ、


と、忍び寄る影。

「ベラ、良くやったな。魔王に殺されただろうと思っていたら、これまた大きな成果を挙げたな」

と、例の黒ずくめの男が歩み寄って来たのだった。

おチビを連れ出した自分の迂闊さを、即座に悔やむベラは、

「クロエちゃん逃げて、クロエさんの所へ!」

そう言うと、おチビを自身の背後へと隠すように立ち塞がるのだった。

「どうしたベラっ」

思いもよらないベラの言動に、その表情を窺う黒ずくめ。

その後ろには十五人ほどの影が姿を現すのだった。


後ろへ走らせようとした、その先には既に黒い壁が出来上がっていた。

「ベラ、お前は本当に何をしているんだ、まさか裏切るのか?」

と、剣を抜く男。

「ダメーっ!」

と、小さな両手を広げてベラを庇うおチビ。

その顔には、恐怖よりもベラを一心に助けたいと言う想いが溢れていた。

「どけっ、お前も斬られたいか?」

と、威嚇する男に、

「そいつが標的だ」

と諌めるような小声。


今度こそは生きて捕えろ。

それが今回の任務の絶対条件であった。

失敗すれば何が待っているかなど分かりきっている。男は黙って剣を収めるのだった。



その頃、小さい嵐の去った宿で、漠然と空を見上げる魔王。

このヴァルミナ地方の空は格別な美しさに思えた。

(あの雲の白、あの奥行き感がいいのよね)

などと一人で解釈を広め、コーヒーを鼻へそして口へと運んでいると、

「クロエー、クロエさん!」

それを吹き出させるような、突拍子もない声がまた下から聞こえてくるのだった。


「何だい、今度こそは幽霊かい」

優雅な時を壊され、苛立つクロエを、なんとか抑え込むリオラ。

「奴らだよ、黒いのがまた出たんだってよ丘の方にさ」

「何だって、丘だって——ベラとクロエはさっき」

と、言いながらまたしても飛び降りるクロエ。

「待ってな、今助けに行ってくるから」

と、リオラの肩を軽く叩くと、今度は飛び立って行った。



草木に覆われた丘に降り立つクロエ。

そこに人影は見当たらなかった。

「遅かったのか——」

とさらに見回すと、

「これは!?」

と、拾ったのはおチビがいつも手にしている弁当の袋だった。

「どっちへ行った」

痕跡が無いか探すクロエ。

「こうも木が多いと空からも……」

と、呟きながらよく見ると、そこに木の実が落ちていた。

そして、あっちにも?と道標を作っていた。

(お手柄よピュチェリ、今行くからね)

と、木の実を追いかけるクロエだった。



「標的を手に入れたとは言え、裏切りは許されぬぞベラ。『救済』は免れぬからな」

冷たく言う隊長。

目の前が真っ暗になるベラ。

このままこのおチビも助けられず、この身を弄ばれ、そして切り刻まれていくのか——


おチビを見つめ、手に力が籠るベラ。

(いや、違う。私は構わない、でもこの子は)

と、おチビを助けるために何ができるかを考え出すのだった。


今の自分にできることは——

「ピュチェリおねがいっ」

と叫び、察したピュチェリもその騎士の頬を引っ掻いた。


「うわっ」

と顔を覆い隠す黒ずくめ。

しかし、リスの爪程度で怯むわけもなく、そこにピュチェリをはたき落とすのだった。


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