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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
3章 幕開け編

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第28-2話 〜その花を咲かせたのは〜


十四年分の甘えをリアンに叩きつけたリセル。

そんなリセルも、まだまだ眠気に勝てない年頃でもあった。


「リセルはぐっすり寝ていますわ」

リセルが寝入るのを見届けたリヴィアがリアンにそう伝える。

「そうかありがとう、いつもリセルを見ていてくれたのだろう?カイルからは聞いていたよ」

噂の“スールレッド“とは大違いの父親としてのリアンに、少し拍子抜けさえ覚えるリヴィア。


少し夜風に——


どちらからともなく星空を見に出た。

「父にも私はここのことも言ってなかったのです」

そう、打ち明けるリヴィア。

何故とは思ったが、黙ったまま星を眺めるリアン。

風が痩せた枝に擦れ、そっと鳴った。

その音だけがそこにある、そんな時間が二人を包んだ。

いつもの大きな顔をした月はそこになく、星たちが細々と照らした。


「じゃあここへはカイルに連れられて来たのでは……すると」

リアンの独り言のような疑問。

「はい、私は姉と折り合いが悪くて、それで家を飛び出しました。そして、行く当てもなかったので、ミリアを頼りました」

と、話すリヴィアの目は星の向こう、そのずっと遠くを見つめていた。


そこにミリアの姿を描く瞳は揺れていた。

「ミリアは君の叔母か何かだったのか」

カイルとミリアの繋がりは知らないリアン。

戸惑いを胸に当てた拳で握り潰すリヴィア。

「いえ……騎士団にいた頃の仲間だそうで、ミリアはその諜報部に居たと聞いています」


ドーンっ、


大槌で脳天を打たれたようなリアン。

これまでの十数年間が頭の中で駆け巡った。

リアンの知る所、カイルの所属した騎士団はただひとつ。

それは『サングィナトーレス』だけだった。


まさか、ミリアが俺たちを——


リアンの中の疑問を、リアンの頭の中の理性が何とか抑えつけていた。

(いや、だとしたらリセルはとっくに……)

エリーと共にミリアの花屋で暮らした日々。

そこにミリアへの疑いは微塵も感じなかった。

今もまだ、リアンの中には、

信じたい想いが敷き詰められていた。


リアンの心の葛藤など他所に、リヴィアは続けた、

「父がそこを辞めたのと、同じ頃にミリアも辞めたと聞きました」

とうとう困惑を色にするリアン。


——カサルモスの後だ


カイルが消えたのは——


そして、ミリアがリセルを連れて行ったのも、あのあと……

思いもよらなかった人物の謎に直面し、頭を抱えるほど思い悩むリアン。


「リセルの母親は……」

口を開いたリアン。

ところが思いの外それは重かった。

カサルモスの夜がなのか、ミリアへの疑心がまだ残っているからなのか、、、


ひとりでに揺れる枯れ枝を眺めるリアン。


その揺れに見え隠れした星が、ひとつ消えていった。

そんな風にこの疑いも消えてくれれば、消えてくれなくては今までの全てが——


リアンがそう耽っていた時、

「ミリアから、その夜のことは少しですが聞いています。死の淵でも彼女は泣きながら詫びていました。『エリー、リアン悪かったよ』と涙を流して」

そうリヴィアがミリアの最後の言葉を告げた。

「そうか、ミリアは……」

呟くリアン。

リヴィアもまた、揺れる枝を眺めた。

「こんな話をしたら、あなたがミリアを恨むことになるのでしょうか」

二人を、そしてリセルを思い、切なく胸元を握りしめるリヴィアだった。

「まだ、分からないさ。彼女にも立場があったのだろうから……」

そう言うリアンの横顔を見つめるリヴィアの前に禁忌の殺戮者はいなかった。


「ふっ、こんな風に思えるのも、あいつの母親のお陰だな」

と、星空の隙間にエリーの顔を浮かべ微笑むリアンだった。

「エリーさん、私も会ってみたかったです」

口伝えに聞いていたエリーも、リヴィアの心にその影響は大きかった。

「ああ、素敵な女性だったさ。なんせこの赤獅子さえ変えてしまう人だったからな」

冷え切ったユトレーデルに、暖かい風が舞い込んで来た——そんな気がした。

「え!?自分でそれを……」

と、リヴィアは目を丸めながらリアンを見つめ、そして吹き出すように笑った。



リアンの冗談に口の滑りが良くなったリヴィアは、

「騎士団は強すぎたあなたの討伐と引き換えに——」

と囁き、そして再びその唇を重く閉ざすのだった。



その静けさに流れ落ちる枯葉が、そこに止まりゆくかのように時を止めて……


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