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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
3章 幕開け編

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第26-1話 〜兆し〜


「いいぞ、そうだそこだ!」

中庭に男のその声が朝を告げた。

「はい、師匠!」

素直な返事をするのは、カシアンと言う少年だった。


カシアンに打たれて跪く少年がいた。

それに向かい、

「何をしておる、さっさと立たぬか!このデクめがっ」

と叱責するのは師範代のドリウスだった。

そこへ、

「まあ待てドリウス」

と制止させたのはマグヌス=セプティリウス、この家の当主である。



セプティリウス家は、騎士団の剣術指導を、国王から拝命する王剣導師だった。

その中でも更に高位のマギステルを拝す、それは王国随一の腕前を意味していた。


そして、カシアンはまさに英才教育を受けている最中であった。

「さあ、もう一度構えるのだ。剣の向きはこうだ、いいな」

当主のマグヌスが少年の形を指導する。

「さぁカシアン、奴の構えをよく見ろ。お前ならどこを打つ?やってみなさい」

「はい、師匠」

稽古中は父でも師匠と呼んだ。

狙いを定め木の剣を打ち込むカシアン。

「いやぁ!」

と、声変わりの来ていない、その気合いに可愛らしさが残る。


カコーン、

突っ立った少年の頭で木剣が鳴った。

頭から血を流しうずくまる少年。

「よおーし、そうだ今のはいいぞカシアン。それを忘れるな」

少年の血など眼中に無い。

「さあ、もう一度だ」

と言って、少年を引きずり起こす師匠。

そして今度は違う構えを取らせた。

「さぁ、やってみろ!次はどこを狙う?」

そうは言われても、さすがに血を流している相手に打ち込むのを躊躇うカシアン。

そんなカシアンは師匠の顔を伺う。

「なあに気にするな、壊れたらまた別のを買って来てやる。さあ、思い切り打ち込むのだ!」

その師匠の掛け声に押され、今度はその腹を薙ぎ払った。

「ベヘェっ」

少年は堪らず地べたに倒れこみ、そのまま気絶した。


「今日はここまで」

と朝食に向かう、親子に戻った二人。

後始末を任された師範代のドリウスは、

「起きろデク、起きぬか!」

と、少年を足で蹴り起こした。

意識の戻った少年の目に、屋根の谷間から漏れる朝日は眩しかった。

「情けないザマだ。そんなんで餌を貰えると思っているのか?リアン!」

ドリウスが喚きながら、手にした木剣でリアンの尻を引っ叩いた。

ペシっ、

音につられ、両手を青々とした芝に着いて倒れた。

「あぁもう立て、さあ早く!」

師範代のイライラは今日も健在だった。



つい先日まで、少年リアンは奴隷商人の家で、猫背のサヴェリに作法を叩き込まれていた。

その後、さる伯爵家に買われたのだが、その道中で山賊に拐われてしまった。

そして、また別の奴隷商人の手に渡り、それを経てここマギステルの家に買われて来たのだった。


今となっては、英才教育の相手をするデクを、つまりは人間サンドバッグをやらされる毎日であった。

リアンの顔や手など、目に見える部分の肌はどこも傷やあざだらけで、元の肌の色を成している所はすでに見当たらなかった。


(どうしてこんな毎日が?)

窓の無い部屋に押し込まれ、目に涙を浮かべるリアン。

友達と駆け回った丘の黄緑の草花。

畑を踏み荒らしてしまった時、追いかけて来た麦わらの爺さん。

まだ十二歳のリアンには、どれも楽しかった思い出として、その目に浮かんで来るのだった。



——そんな日々が六年も続いた


当主マグヌスの予想に反し、リアンは壊れづらいデクだった。

今もその肉体は健在で、与えた”餌”の割に屈強な身体つきをしていた。

そして、ただのデクではと多少の剣術も仕込まれた。

それに加え、秘伝の技を日々打ち込まれていたリアンに、それは自然と身体に染み込んでいったのだった。


「さあ構えろ、デク」

例の中庭に早朝から立たされるリアン。

「今日はこれを使いなさい。これで思いっきり斬ってみるんだ」

と、マグヌスは息子のカシアンに、真剣を渡したのだった。


そろそろ初陣を迎えるカシアン。

戦地では人を斬ることを躊躇う騎士も少なく無い。

そんな不安の解消を、訓練のうちに済ませようと言うのだった。


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