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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
3章 幕開け編

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第25-1話 〜旅立ちのかたち〜


回廊に靴音が響いた。


ひとつは壁の彫刻の花に弾かれ、また一つは白い欄干の間をすり抜け、空へと逃げて行った。


野に逃げたものは追えたが、空に向かったものは追うことは不可能だった。


そこへまた別の靴音が、それは力強くその壁の花さえ散らす勢いだった。

「あ、カエサル、そっちに誰か行かなかった?」

「いいえクラウディア様、誰も見ておりませんが」

「そう、ありがとう」

走り去ろうとするクラウディア。

その手を掴む強い力、

「クラウディア様お話が」

カエサルの目には先ほどの困惑の色もなく、真っ直ぐにクラウディアを見据えるのだった。


そして、カエサルの強い靴音は単に酒のせいではなかった。

あの二人に担がれたのが大きかったようだ。

『クラウディアにひと押ししてみたら』

と。

だが何ともバツの悪い男だった。

今のクラウディアに色事は効かない。

その胸騒ぎの元を探さなければ、それが平穏を守るものの使命と必死になっているのだから仕方なかった。


「カエサルごめんなさい。今はちょっと」

急ぐ余りつっけんどんに返し、走り去るクラウディア。

「ああ、やっぱり相手にされていないのか……」

呟き、ごめんなさいの意味を履き違え落ち込むカエサルであった。


(どこ……こっちか)

広い神殿を走り廻ったが、それらしき影は見つからなかった。

見当違いかと思い戻ろうとした。もしも何かあれば、悲鳴の一つも聞けただろうからと思った矢先、

「ぐぅわぁー!!」

男の声なのか——それが微かに壁に反響した。

どこから聞こえたのか、これでは位置の特定は難しい。

見回しても何も、影さえ見あたらない。

(恐らくこっち……)

そして、何かを見つけた、

「あれは?」


クラウディアの目に入ったのは、血の上に横たわる男とその傍らの白装の男だった。

そこに駆け寄り、

「はっ!?司祭様、これは——」

と白装に聞きながら、倒れている男の顔を見た。


珍しく慌てるクラウディア、

「サルヴァッティ!サルヴァッティ!」

と辺りを見回しながら救護班を呼び叫んだ。

すると、壁に響き渡る足音が近寄って来た。

「こっちよ、早くっ」

と、懸命に叫ぶクラウディア。

しかし、その声に駆け付けたのはカエサルだった。

「クラウディア様、これは——」

と、やはり聞くことは同じだった。

「カエサル、刺した者の捜索を」

と言いつつ、その行方を聞くようにアベラルドを見た。


首を横に振るアベラルド、不思議そうに顔を見合わすクラウディアとカエサル。

そして、何かを掴むように手を空へと伸ばす血塗られたグランヴェル。

それは、ゆっくりと、ゆっくりと、手招きをするかのようにひらひらと。

「さ、サイノゼール、す……済まなかった……」

と、力無く言うとその手は白い石の床に落ちていった。



——空に逃れた者にその手が届くことはなかった


決して……



「グランヴェルっ」

軽くなったその身体を揺すり、そう叫ぶアベラルド。

その目尻の皺に光るものが、すーっと染み込んでいった。

心を痛めて来た分だけ、刻み込まれた皺の数。

これまでどれだけの涙がそこに浸透していったのだろうか。


それをそっと見守るクラウディアにも、溢れる熱さがあった。

が、悲しむ時ではない、

「司祭様、経緯をお話しいただけますか」


犯人を逃すまいと、その心を強く強く握りしめるクラウディアだった。



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