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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
2章 カサルモス編

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第24-1話 〜まっすぐな女たち〜


白い森が深い青に染まる中、ほのかな光が道を標した。


そんな夜に馬を飛ばすクラウディアがいた。

「アルジェありがとうね」

と、愛馬の髪を撫でた。

膝を緩め馬の動きに合わせての体重移動。

それにその全神経を徹したのだった。

そのしなやかさと機敏さがさらに馬を助け、このセレスタリアにまで辿り着けたのだった。


そこにあのマーヴェルの助力があったことを忘れてはいけなかった。

彼女の絶対的な信頼が、この作戦の全ての不安を取り除いてくれたからだった。



まだ夜更け前である。

エリシアへの目通りも許されるであろうと、居室へと向かうクラウディアの頭にはある不安がよぎった。


それはエリシアの『酒癖』にあった。


遣いを介さず直に部屋を訪ねたクラウディア。

コン、コン、コン、

「時間を弁えず失礼致します。総帥はご在室ですか?」

続けて名乗ろうとしたのだが、

「あら、早かったのねクリス」

と、顔を見るのを待ち切れずエリシアが勢いよくドアを開けた。


エリシアのこの上ない笑顔が、クラウディアの無事を喜んでいるのは一目で分かった。

しかし、それを見たクラウディアの顔が俄かに強張り、その心から困惑以外の感情は出て行ってしまったのである。



フェルクイエスに人は多い。

しかし、クラウディアを親しみを込めクリスと呼ぶのはセリナだけだった。

あと、記憶にあるとすれば……


それは酔った時のエリシアだ。


「なーにクリス、そんなムスッとして。そんなんじゃカエサルも逃げちゃうわよぉ」

そう言うエリシアの肩越しに、その顔が赤く火照っているのが見えた。

とっさに目を逸らすクラウディアが少し俯くように首を傾げた。

心を覗かれるのを恐れる少女のような表情に、時までも失うカエサルだった。


2人の淡く甘い空気を壊す憎たらしい泥酔エリシアは、

『白銀の魔精』から『酒酔いの魔性』へと変貌していた。

草葉の陰からカイルが見ていたら何と嘆いたことだろうか。


「あーら図星よ図星。フフフ、まかか爺見て見てクリスの顔〜。カエサルもほらっ」

こんなことで密かな思いが壊されては溜まったものではないクラウディアは、無意識に腰に手をやるのだった。


それを見逃さないエリシアは、

「あら怖い、見たカエサル?剣を抜こうとしたわよぉ。あなたも将来気をつけなさいよ」

この時ばかりは、剣類管理に愛剣を預けて来て良かったと、内心ホッとするクラウディアだった。


「ほほほ、いつまで立ち話をするんじゃ!行儀が悪いとシンロウに堪えるぞ」

と、まかか爺。

チラッとカエサルの反応を見たのは当のクラウディア。

その音を新郎と捉え、揶揄われたと思い込んだ。

そこへ、

「仰る通りで、長旅は心労に堪えます」

と、カエサルの言葉に赤くなったクラウディアの頬。

「ははは、何か勘違いしたのかしら?このオマセさんは」

と、笑いすぎのエリシア。


クラウディアもそろそろ三十の声が飛んで来る歳だ。

(オマセさんはないだろオマセさんは?)

やはり愛剣双月を取りに行こうかと考えるクラウディアだった。


「笑い過ぎじゃエリス。わしの横っ腹も朽ちいよ。ほほほ」

そんな揶揄いの中にも二人の距離を縮めようという思いがあった。

しかし、そんな思いとは裏腹に一人恐れを抱くカエサルがいた。

クラウディアの困惑の表情を怒りだと誤認していたのだった。


クラウディアの機嫌を取ろうとふためくカエサルに、尚も心を隠そうと顰めっ面をするクラウディア。

そんな二人にとっては嫌な夜の流れ方だったと言えようか。


笑われるだけ笑われたクラウディア。

好きな人の前で裸にされたような恥ずかしさがあったことだろう。


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