第3-1話 〜魔王と赤獅子〜
——ノルヴィエル
優しい花が咲く町、
『心に安らぎを求むなら彼の地に行け』
と謳われた。
そこは緑が、花が、優しく包み込んでくれる……
この世界に唯一、まだ生命を神の息吹を育んでいる。
そんな町だった……
「エリーにピッタリな町だ。陽に輝く花々が美しく……」
「まあ、あなたがそんな言葉をくれるなんて、初めてお会いした夜にはとてもそんなこと」
笑いながらエリー。
「ごめん、本当にごめん。もう忘れてくれよ、ほらこの花を君に送るから」
と、すっかり手懐けられた赤獅子。
「なんて素敵なの!?この花がこんなにあるなんて夢のよう」
頬を赤らめつつ花に目を奪われるエリーだった。
こんなことで人とは喜ぶものか?
と、長く人の感情を失っていたリアンには、そんなエリーの笑顔が眩しかった。
「きっと随分と探したんでしょ」
リアンからの贈りものに胸を膨らませるエリー。
そんな彼女の仕草に、
「すぐさ、すぐ見つけたさ」
と逸る鼓動を抑え、得意気に振る舞って見せた。
「本当に?この花はすぐに見つかるようなモノではなくってよ」
と、エリーはリアンの顔を覗き込んだ。
そんなエリーの純粋さがリアンの顔を赤くした。
「君を思えば時間なんて、あっという間に過ぎていくからね」
「もう、またそんなことをおっしゃって」
と、エリーもまた心を躍らせていた。
そんなふたりの顔。
それはこの赤い花に劣らず、そこに儚い花びらが、芳しく咲き誇っていた。
——いつか来るそれを象徴するように
遠い記憶が……
夢の中で、そして胸の中で、
いつまでも、何度でも甦って来るのだった。
——雪
雪が白いと、この町の子供たちは知らなかった。
降り積もった雪は、すぐに赤く染まるから……
林の木々は白とビリジアンが織りなす、お揃いのセーターを着ていた。
そして寒がりなのか、厚手の帽子を深々と被って夜空の元、そこへ寄り添い合っていた。
——ヴァルメルの石塔
ノルヴィエルの外れに位置する古代の遺跡。
神々がまだ人を赦した時代の証。
そして突き放された今は、ただ苔の土壌と成り下がっていた。
そんな石塔に雪が帽子を被せた。
(忘れ去られても泣くんじゃ無いよ)
そう言っているかのように。
その石塔の足元がまた赤く染まっていった……
それはまたしても人の血だった。
そしてその傍には、やや土気色した艶っぽい肌に白い翅を持つ吸血鬼の姿があった。
その翅で身を包み雪に紛れながら人を待ち構える。さながら地蜘蛛のようだった。
そんな地蜘蛛を上から眺めるリアンがいた。
(まぁ、見つけたからには、ヤルしかないな)
そう思いたったら身体が動き、急降下に飛び降りるのだった。
「ぐぐっ」
うめく地蜘蛛。
「わりーな、恨みはないんだが」
と、軽く挨拶代わりのブーツをお見舞いした。
唸り声を上げ転がった地蜘蛛は、起き上がり様にリアンの顔を睨みつけた。
(は!?)
そして何かに気づいたのか、
「その色は——」
と訝しみ、そして凝視するのだった。
リアンの瞳は吸血鬼たらしめる赤ではなかった。
目が赤くない吸血鬼なんて、そんなに沢山いる訳でもない。
ましてや、
(こんな野良で出くわす奴など)
そう思うと、全身に硬直が、そして震えが襲い出すのであった。




