第23-1話 〜取り違えた神〜
23話は、
酷くて悲しい回になります。
嫌な気持ちになるかもしれませんので、苦手な方はパスしていただいた方がいいかと思います。
柔らかな朝日が目を擦った。
そして、少し焦げたような匂いが鼻をくすぐると、芳しい香りへと変わっていき、ボヤけた意識を揺さぶり起こしにかかって来た。
気づくとそこはベッドの上だった。何年ぶりだろうか?こんな目覚めは。
その隙間から縫って入る爽やかさに吹かれながら身体を起こした。
「え!?」
起きがけに女は胸元を、そして腰のあたりを手で探り、着衣のあることを確認した。
少しの安堵を得ると、
「なんだい、あんたは?」
と、目の前に立つ男につっけんどんな物言いをするのだった。
もしもここがその男の家だとしたら、それは失礼なのかも知れなかった。
「ああ、いや俺はここの者だが……」
やはり失礼だったようだ。
失礼なのは承知の上だとばかりに、
「だから、あんたは誰なんだ?と聞いているんだよ!」
と、ついにベッドから立ち上がり凄んで見せるのだった。
「あ!?あー、昨日あんたが歩けそうになかったんで、ウチに連れて来たのさ……いや間違ってもそんなことは——」
慌てて手を振り後退りする男。
冷静に聞くとこうだった。
昨夜、酒場で不躾な男たちを退治してくれた。
そして礼にと酒を振る舞ったところ……
「あぁ思い出した、あんたそこの店主かい?」
と、合点がいったのはそう、知る人ぞ知る大酒豪のクロエだった。
善意で泊めて、そして朝食まで用意をしてくれたその男に、
「済まないねぇ、こんなにしてもらって」
と礼を言うのだった。
が、
「いやぁ、これくらいは大したことでもないんだが……」
言いながらもまだ青ざめたままの男。
「早とちりしてしまったようだね。悪かったよ」
言いながらも手は止まらないクロエだった。
開け放った窓に突然影が差した。
そして隙間をすり抜けるかのように室内に忍び込んでくるのだった。
全身を覆う逆立った毛は、不揃いに伸びきっていた。
室内を見渡した後、何かを視界に捉えたように真っしぐらに駆け寄る。
手には何も持っていないようだが、頬を大きく膨らませていた。
そう、それは口一杯に木の実を含んだピュチェリだった。
ピュチェリはクロエの分の木の実も持って来たらしいが、自分だけ食事中の彼女を見て、
「ぎゅっぎゅっ」
となんだか怒っているような素ぶりをするのだった。
そして、腹を満たしたクロエは感謝を伝えその家を後にした。
幾らかの食料と、昨夜ピュチェリがお気に入りだったナッツもいただいて来た。
(少しは機嫌を直してくれるわよね)
と甘い考えでピュチェリの頬を撫でたクロエ。
「いたっ!?」
ピュチェリの甘噛みが、いつもより厳しかったのは言うまでもなかった。
——ヴァルデ・ソンブラ
幽冥の森林が続く地。
湿った土を木の車輪が、その三分の一近くが埋まりそうになりながらも走り続けた。
「こら、もっと急がんか!」
御者には聞こえもしないのに、馬車の中から喚くのはジョアモズだった。
左手は、まだ幼そうな少女の懐を弄っていた。
やがて教団の神殿にたどり着くと、
「ひゃひゃひゃ、どれじゃどれじゃ?」
と舌舐めずりがその暗い回廊に、悍ましく響いた。
馬車に残された少女は、騎士の宿舎へと連れて行かれた。
何れジョアモズと同じ趣味の者が、そこに待ち構えているのだろう。
ここはジョアモズの別室、教団内では『仕置き部屋』と呼ばれていた。
主に彼の夜を彩るための部屋だった。
「ははは、どんな子だぁ?」
特有の薄気味悪い声、そして内臓の腐った臭いを撒き散らす息。
そこに繋がれた女はさらに怯え、太い鎖の手枷を鳴らすのだった。




