第22-3話 〜白ふたつ、青と赤〜
それが良かったのだろう。
その母からしたらクラウディアたちでさえ、信用できない余所者に他ならなかった。
クラウディアの涙が、娘の死を悼んでくれるそんな女傑が、その疑念を取り除いていくのであった。
ようやく顔を上げる母に、口を開くクラウディア、
「今後なのですが、またいつ襲ってくるかもしれません」
この先自分たちが守ると言うことと、そして勝手ながらパウラを弔わせて貰った旨を伝えた。
「そうですかパウラをそんな方のお側に……」
その涙は、我が身を案じてくれる麗しいこの騎士への感涙でもあった。
クラウディアは、同行した唯一の女性配下へ、
「マーヴ、お母様を丁重に」
と、一言告げ先に馬を駆った。
理由は聞かないマーヴと呼ばれた女騎士。先ほどのクラウディアの遠い目を思い起こし、悟ったからだ。
マーヴは優しく、
「さ、お母様こちらへ」
と手を差し延べ、馬上に引き寄せた。
揺れを抑えながらゆっくり歩く馬。マーヴの手並みが窺えた。
そして、先程のダガーもこのマーヴの業で、クラウディアの友とも呼べる確かな騎士だった。
「私はマーヴェルと申します。クラウディア様に代わりお母様をお守り致します故、ご安心くださいませ」
と、少しでも恐怖を、緊張を拭い去ってもらおうとの気遣いだった。
思いは伝わるものだった——
「何から何まで本当にありがとうございます。申し遅れましたが、私はアマリス=レンザァリクと申します」
馬上で胸に手をあて、そう名乗る彼女の顔はようやく穏やかになっていた。
やはりその吊り橋はカラカラと鳴った。
コーラルレッドの騎士を乗せた馬が疾走していた。
その音に渓谷脇の茂みから騎馬が、次いで馬車がそれに向かって来た。
そう、彼らは無事だったのである。
野営を張った後、念のためレンツの旗印を隠したのが事なきを得たようだった。
クラウディアの旗を隠したことに、少し後ろめたさを感じていた配下は、
「よくやった。帰還するまでその旗印は伏せ置くように」
と、思わぬ彼女の称揚に安堵した。
そして続けて、
「私はこれより単騎にて帰還する故」
と、今後の作戦行動を示した。
これより後マーヴェルとその他二騎が対象を連れて戻って来るので、そして対象を馬車にて送り届けるようにと。
数が合わない。
クラウディアに従ったのは七騎のはずだった。
残りの四騎は——
白い頂の連峰のひとつを拝む林の木陰。
そこは人通りがそれ程ないことを、その土が伝えていた。
そこに大きな穴を掘る人影があった。
木々の隙間にその根を避けるように幾つも穴を掘った。
しかし、なるべく近くに、共に居られるようにと心を込めて。
そう、それは散った四十数個の赤い女郎花を弔う墓穴だった。
それをクラウディアの配下が掘り、そこに埋葬していたのであった。
フェルクイエスの戦士に死者を嘲笑う風習は無い。
例え敵であろうと、遺恨を残さぬ者には弔いの意を手向けた。
ましてや野にそれを放置すれば、往来の迷惑にもなることだろう。
そして、本来ならクラウディアは、あの母親を守り同道するべきだったのである。
(マーヴあなたになら——)
そう、クラウディアの信頼を得る彼女なら必ず遂行する。
マーヴェルならその生命に代えても。
今はただこの胸騒ぎの元が、あのフードの目がクラウディアを疾風へと変えていた。
それが後に、クラウディアに反逆の嫌疑を掛けることになろうとは、夢にも思わないのであった。
完




