第22-2話 〜白ふたつ、青と赤〜
ローブのフードを深々と被った騎士が先頭を駆けていった。
すれ違い様にクラウディアを横目に見た気がした。
クラウディアの胸が騒ぐ。
岩にぶつかるせせらぎの音と共鳴するかのように。
それは声に、焦りとなって現れた、
「急ぎましょう、速く、危ないわ!」
それは言葉としては繋がっていないようだったが、今の彼女の心境は正にそれだった。
意味を理解したかなど確認もなくただ速度を上げ、そして疑わずそれに付き従うコーラルレッド隊たちであった。
クラウディアとは別の不安を抱える者がここに居た。
そう、クラウディアとすれ違った騎士だ。
それはテオドラだった。
もちろん、彼女はさっきクラウディアを視認した。一瞬だがクラウディアより先に相手を見つけたのが功を奏した。
(もう嗅ぎつけて来たのか、勘のいい奴め)
心で罵りはしたが、この人数であの双月とやり合う訳にはいかない。
結果は知れていよう、ただ野の草花の肥やしにされるのがオチだったからだ。
そして、彼女は自身の無事と引き換えに、残して来た騎士四十数名が帰らぬ者になることを確信したのであった。
村に差し掛かったクラウディア。
目の前に四十余りの騎馬が、そこに女を取り囲んでいた。
怯えたその顔に、それが対象であろうことは推測された。
名乗ろうとして辞めたクラウディア。
その刹那にパウラの死の映像がよぎったからだ。
『生きて拐えないなら殺してしまえ!』
相手がそんな連中だったからである。
群勢と対峙するクラウディアと七騎。
しかし、落ち着き払っているのはクラウディアたちの方だった。
群勢の中の大半はクラウディアの顔を、あの戦いぶりを見ていたのである。恐怖に怯えるのも無理はなかった。
ゆっくりとクラウディアの馬が足踏みをし、僅かに左に向いたように見えた。
実の所は、クラウディアの膝がそう仕向けたのである。
そして、群勢から見えなくなった左手の指で、女を抱えた騎士の死角にいた配下へ合図した。
ビュッ!
——空を裂くダガー
手前の騎士たちの頭の間をすり抜け、ぐさっと定めた額に深く刺さった。
馬上から地べたに落ちる女。骨の一本や二本くらい覚悟して欲しい、そんな思いがダガーには込められていた。
すかさず四人の配下が下馬し、飛ぶように駆け寄り、そして女を覆うようにしてその身を守った。
クラウディアの配下の腕前と結束が窺える運びとなった。
——舞台は整った
愛馬アルジェの背から降り、剣を抜くクラウディア。
猛り狂うその双月斬——
壇上の劇を見るように彼女の配下たちは、固唾を飲み見守った。
右へ左へ、流れる鈍い黒鉄の輝き。
そこに噴き上がる血は、さながら赤い女郎花のようだった。
青空の似合う静謐な村に起こる殺戮の嵐。
時に緩やかに、そしてまた、そこに鋭く巻き起こる竜巻となってそれらを襲った。
剣を抜こうとしている間に斬られるもの、逃げるその背を容赦なく血に染めていくものなどさまざまであった。
パウラの葬儀の時の宣言通り、彼らに容赦なく鉄槌を下していった。
止まることを知らないクラウディアの舞、そこに四十数名分の赤い花を刈り取っていくのだった。
血の滴る剣を振り鞘に収める彼女の息は、既に穏やかだった。
そしてまた頭を掠める予感が、不意に吊り橋の方へとクラウディアの視線を向かせた。
遠くを見る彼女の目を、怪訝そうに見守るダガーの騎士。
クラウディアはあのフードの騎馬から、ただならぬものの気配を感じ取っていたからだった。
そして、配下たちに大切に抱えられ、その女はクラウディアの前に連れられて来た。
怪我が無いのは幸いだった。
しかし誘拐されるのも、凄惨な殺戮を目の当たりにするのも、初めての経験だったであろう。
その恐怖はまだ彼女の顔を強張らせていた。
「私はフェルクイエスに所属するクラウディアと申します。パウラ殿はあなたの……」
と、パウラの母であることを確認し、その死の経緯を伝えた。
しくしくと泣く母。
取り乱すことは無いが、その深さはクラウディアには容易に窺えた。
クラウディアは言葉なく、その肩に手を添えた。
真に辛い時には言葉は邪魔だと、アベラルドに教わったばかりだ。
しかし、手を添えたはずのクラウディアの瞳にも、またあの熱いモノが浮かび溢れ出すのだった。




