第21-3話 〜明日の陽が昇る前に〜
ゴンゴンゴン、
躊躇いも何も無く、ただ勢いに任せて叩いた。
「何じゃこんな時間に!?」
言いながら、荒々しい歩幅でドアへと赴く。
不機嫌の理由は、その時間の遅さではなかった。
もう少しで天に昇り詰めそうなテオドラをベッドに残し、ガウンを纏いながらヴァルグラムはドアを開けた。
「恐れながら、恐れながら」
萎縮が言葉を繰り返した。
それを見て、眉間の皺を解くヴァルグラムに、フェルナスよりの使者の言葉をそのまま伝えるアダムノア。
「なな、何だと!?」
ガウンの帯を締め損ねるヴァルグラム。
彼の慌てぶりは貴重である。
アダムノアには疑問があった。
その驚嘆は、ワンヴュエズが討ち取られたことなのか、それともリアンらしき男の目撃なのか?
「な、な、なんたることか、あの二人が!?」
その答えはその両方だったようだ。
その深夜にも関わらず、議事室への招集はかけられた。
当然、皆の気持ちを表す言葉は、不機嫌、不快、不服そんなところだった。
しかしヴァルグラムが口を開くと、それは全て消し飛んでいった。
『クルヴァルス計画』
その成就に向け、更なる一歩が踏み出されたからだ。
その言葉はサングィナトーレスの全員が待ち望む最大の目的だったのだ。
「赤獅子が東へですか」
案外合点がいったような口調をするのは、ルキウス。
「おお、さすがは知恵者よ、で何があるのだ?」
ルキウスの意見にヴァルグラムは、テーブルに乗り出しかけた。
「いえ、確かカイル殿はあの赤獅子と昵懇の仲。ならば赤獅子が向かう先に——」
と、今でもカイルに一目を置いているルキウス。
彼の智恵者の基盤にはカイルの影響が大きかったことの顕れと言えた。
「か!?そうかアレがここを裏切った火種も赤獅子だったな?」
と、核心を得たヴァルグラムは頼もしそうにルキウスを眺めた。
そこにヴァルグラムとは違う視線を彼に向ける者がいた。
それはテオドラであった。
彼女はカイルという言葉に飲み込まれたのである。
あのセリナの父にして、フェルクイエス最初の武神。
そんな男のことに興味を示さない彼女ではなかった。
(聞きたい、どんなことでもいい)
あの女に近づけるのなら?
少しでも強くなれるのなら?
なんだってやってる——
そして、その夜明けはまだ要らなかった。
深く人が眠るからこそ、その影は旅立てた。
階に佇むアダムノア。
フェルナスへ、ユトレーデルへと闇に紛れ飛び立つ影を、その手でさし示し向かわせたのだった。
——月が邪魔だった
そんな夜の在り方を望む者がここにいた。
セレスタリアの湖にもまた、そんな一つの夜があった。
「こんな夜に……」
月明かりに弧を広げていく舟。
そこに月を撃ち落としたいと願う者がいた。
その小さな舟底には、縄で縛られた鉄の塊と、それに繋がり冷たくなった身体があった。
「すまなかったな、これで楽になってくれ」
そう言いながら、
ぼとんっ、
と、それを暗い水の中へ落としていった。
その月は自分の過ちを嘆くその粒を、濡れた頬を光り照らしていた。
青く黒い湖面を滲ませ、そして沈みゆくものを追いかけ白く白く突き刺すように。
たとえ疎まれようとも、月は暗い世界をも明るく照らそうと努めた。
この地に不純は許さないと——
完




