第20-3話 〜種を蒔く者、拾う者〜
そして、地を裂く轟音と目を潰すような強い光が走った。
それは、土石を飛ばし荒れ狂うワンヴュエズの剣と、急直下するシャリイの閃光の剣だった。
大剣レイキスはまず先に、ワンヴュエズの剣を掬うように斬り上げた。
空気に激しい振動を与えながら、二つに割れる剣。
胴から離されたその剣先は、カッシヤヌスを目がけ一直線に飛来するのだった。
ガサっ!
と突き刺さる。
それは顔を覗かせたカッシヤヌスの目の横の壁に突き立ったのである。
開いた口に削られた石粉が舞い込み、ジャリと舌の上に乗ったそれを噛んだ。
あと数センチずれていたら、今頃彼は天への階段を登っていたことだろう。
何れにせよ彼は後ろへのけ反り、腰を抜かしていた。
ワンヴュエズを剣ごとその肋骨を断ち切ったレイキス。
しかし切られた本人でさえそれを知らない、そんな速さだった。
ただ、動かない身体を『何故?』とばかりに見つめ、そして地に臥して行った。
空からは黒い羽根がひらひらと落ちて来た。
そしてその大きな羽根は、ワンヴュエズの上に覆い被さっていった。
それは死後も二人が共に居られるようにと、リアンの計らいだったのだろうか。
常識の外にいるその戦術、それさえ彼には野の花を千切る程度の所作だというのか、そこに余韻を残すことなく立ち去るリアンだった。
二度と見ることはないだろう?
そう思わせる、爽快とも言えるリアンの戦い。
それを目の当たりにしたカッシヤヌスたちに冷たくなった風が、その血の臭いを運んだ。
それが鼻を突いても彼らは、それでも動くことさえ出来ずに、ただ黒い外套の裾が風に流れるのをぼーっと眺めるだけだった。
——息が荒い
その呼吸のわざとらしさに気づき、我に返った。
が、その呼吸をまだ止めることも出来ないカッシヤヌス。
(あれがスールレッドなのか——あんなのが本当にこの世に……)
今まで生きてきた常識が崩れてゆく。
(セントリオルムが束になった所で……)
「隊長!」
不意に呼ぶ声に振り返ることもなく、
「ああ、平気だ」
何故か心配されたような気がして、そう答えるカッシヤヌスだった。
そして、
「マルゲウスを呼べ」
と言い放った。
——異形の者マルゲウス
サングィナトーレス内部でもそう呼ばれていた。
身が崩れたままの形を残し再生された男。
そして本部への早馬の命を受けたマルゲウスは、獣の如く飛び去っていくのだった。
時に樹木を薙ぎ倒しなぎら駆け抜け、また時には大岩を踏み砕きながら渓谷を飛び越えて行った。
それは今夜中にはサングィナトーレス本部に到達することに、何の懸念も許さない速さだった。
そして、
「いいか、回収班が来るまでに死体の処置をしておけ。抜かるなよ、マルゲウスの様な未完成品を作る訳にはいかないからな!」
と命令するカッシヤヌス。
それに部下が返す、
「あの女たちの救護は……」
との言葉を打ち消すカッシヤヌスの怒声、
「馬鹿者、そんなのは後だ!やるべき事を違えるな」
冷たいようだが、それがサングィナトーレスである。
吸血鬼の回収に失敗すれば、彼らを待っているのはあの『救済』である。
それを知るカッシヤヌスは敢えて強く叱り、そして彼自身は赤獅子を追うと言い残し去っていった。
(なぜ物資調達隊の自分がこんなことをしなければならないのか?)
そんな疑問の中カッシヤヌスは前代未聞の化け物“赤獅子”の跡をつけるという難題に挑むこととなった。
彼がもしも振り返れば、それは間違いなくカッシヤヌスの死を意味した。
その不慣れな足取りで、遠く距離を保ちつつ跡を追った。
肩に触れる枯枝の音さえ聴かせぬように、、、
その漏れるため息さえ聴かれぬようにと——
完




