表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
2章 カサルモス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/59

第19-1話 〜道を与えるもの〜


家から小言をいう者が居なくなると、なんとも清々するものだ。

美味しい物でも頂きながら、優雅なひと時を送る絶好の機会と言えた。

マルセルが死亡叙勲を届けに、ある貴族の元へ出発して早三日が過ぎた。



——柔らかな木漏れ日の昼下がり


「ねぇ天気もいいし、このあと皆でお茶会でも如何かしら?」

と、机に頬杖を突きながら、窓の外を眺めるエリシア。

池の辺りの赤い花に目を奪われる、そんなエリシアの心こそ晴れ渡っていた。


「ああ、いいな。じゃあ俺は爺さんを呼んで来るよ」

ドアの方へ半ば身体を向けながらそう言うカイル。

(あのカイルがお茶会とは!?)

ガラスに映るその姿を見ながら、嘯くようなエリシア。


「あ、それならセリナちゃんも呼んであげたらどお?」

「あいつか?まだガキだからな、こんなトコに来てもつまらんだろ?」

その”こんなトコ”には少しムッとしたが、それよりも、

「たまには息抜きに若い女の子の話でも聞きたかったのになぁ……」

机に突いた肘から顔を持ち上げ、そして肩を落とすエリシアだった。


それもそのはず普段は中年男の、しかも小言ばかり聞かされるのだ。

「分かったよ聞いてみるよ」

仕方なさを装うカイルの目は踊っていた。娘と話すことなど要件でもなければ出来ないこの男だ。

しかし、浮き足立つカイルのその足を止めるものがあった。


廊下に響く足音。

その音に嫌なものを感じ顔を見合わす二人。

そして、その開け放った入口から、

「申し上げます!」

一礼しながら入って来るのであった。


内容は、先日戦死したもう一人の遺族からの訴えだった。

『我が子の死をこんな叙勲と慰霊金で済まそうとするとはなんたることか?』

と。

入隊時に、騎士として死の覚悟を持つことは、本人も家族も承知の上のことだった。


だが、相手が悪かった。

「フィっ!?」

珍しく口籠るエリシア。

「なんでそんなのが出てくるんだ?」

カイルでさえ驚きを隠せない。

「いえ、そんな家柄の人を雇った覚えは……」

困惑が深まるエリシアは、天井の隅を見つめる。


それもそのはずで死亡した男の家ではなく、その妹が嫁いだ先の家柄に問題があったのだ。

その家は、ノルヴィエルの南方の地を治める領主のフィッセル公爵家だった。

公爵ともなると、エリシアたちにとって見過ごせる相手ではなかった。

なぜならフェルクイエスへの寄付も多大な物で、その多くは伯爵家や子爵家からの支援がその大半を占めていたからだ。


そこへ、公爵が風を吹かせれば——


まだ地盤の固まっていないフェルクイエスなど、裕に吹き飛ばすだけの力があった。

加えて、理想を掲げるフェルクイエスとしては、それを無碍に扱う事も出来ず、ここにご高察を賜りに来たのだと言う。


お茶会の計画は頓挫したが、こんな時の切り替えが速いのも、エリシアの長所といえよう。

「これでは、カイルの役職を考えてる場合ではないわね?」

まさかお茶会の裏にそんな企みが隠されていようとは、夢にも思わなかったカイル。


何か文句を言いたげなカイルを抑え、

「あらだって鬼の居ぬ間に、て言うでしょ?」

さらっといって退ける彼女の爽やかさは、いっそ心地良かった。

しかし逃れたいカイルは、

「よしここは一つ俺が行って話を付けてこよう」

と、引き延ばし作戦に出た。

「あなたが出ていったら威圧で丸め込んだなんて噂が、忽ち村中に広まるわ」

と、真顔のエリシア。


「そうなるとクレトもダメだし?」

「何で?」

またまた真顔のエリシア。

「それは、下の村ではクレトの噂で持ちきりで、こんな時に行ったら?」

「いいじゃない、この際だからみんなにクレトのことをもっと知ってもらえる機会にすれば」

エリシアはよほどクレトが気に入ったのか、それとも裏に何か思惑を隠しているのか——

カイルは黙ったまま探るようにエリシアを見つめた。


そこへあの爺がやって来た。

「お困りですかな?大司教としてのワシへの最後の頼みを聞きますぞ」


「それだっ!!」

と、妥協点であるアベラルドを二人して指差した。

それを見て咄嗟に、良からぬ企みを感じるアベラルド。

そんな彼に、

「フェルクイエスの総帥として命じます。アベラルド=ヴェーンよ直ちにフィッセル公爵家に向かい、今回の訴えの取り消しを……」

「待て待て待て、エリスよ。意味が分からんて」

捲し立て早口に言うエリシアに、訳を話せとアベラルドが遮った。


そこに限界がやって来た。

「くくっ、うゎっはっはっはー!」

腹を抱えたのは、それを見ていたカイルだった。

「エリシア、お前も冗談を言えるんだな?騎士団にいた頃『白銀の魔精』と恐れられた時からは想像もつかないよ」

と、まだ笑うカイル。

「まったく、お前らは幾つになってもワシを揶揄うのう」

そう言うアベラルドは、なんとか不服そうな顔を作ってみせるのだった。



エリシアは事の顛末を話した上で、

「どお、引き受けてくれるかしら?」

今度は総帥らしからぬ打診をした。

喉の上の方を掻くように撫でながら、

「はてのうフィッセルかぁ?どうしたもんかのう?」

目は天井をぼんやり見ているアベラルド。

「あの周りにはエレスミア教団の者もたくさんおるでのう」

迂闊には動けぬと、さらに思案が深まる。


黙って見守る二人。

そして何か閃いたのか、 

「分かりました。このアベラルド=ヴェーンが、謹んでお受け致します」

と手を胸にあて敬意を示しそう答えた。


安堵に胸を撫で下ろすエリシア。

そこへ、一つお願いがあると言うアベラルド。

「今回のこの大役を仰せ付かるにあたり、今より司祭として任命頂きたく存じ上げます」

と、今度は深々と頭を下げて懇願して来たのだ。


この世に存在しないモノを見たかのように、不思議そうに顔を見合わせる二人。

「え!?ちょ、ちょっと待って。何で降格させるの?」

エリシアの当然の疑問だった。

ましてや今回はフェルクイエスの危機、こんな大局だ、それを丸く収めようと言う者が——


逆に『枢機卿にでもしてくれないか』と言われてもおかしくないほどだった。

エリシアたちの反応は自然過ぎたと言えよう。

「自分の口から言うのもちと気が引けるのじゃが」

と一言添えた上で、アベラルドが訳を話し出すのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ