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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
2章 カサルモス編

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第18-3話 〜道への始まり〜


しかし、初めて間近で見るエリシアに、そしてこんな砕けたカイルなど想像だにしなかったクレト。

「心配するな、エリシアと俺は兄妹みたいなものだ。そしてこの”まかか爺”も」

「これっ、カイルめこの悪ガキが!」

と、カイルが話す途中で、アベラルドが笑いながら遮った。

そして三人の大きな笑い声が、一層クレトを不思議な空間に閉じ込めていくようだった。



「すまんクレト、少しフザケが過ぎたな」

と、カイルは自分が子供時代からの三人の間柄を話した。

ようやく理解に追いついたクレト。


そして本題に入る。

「今の俺の本心は、クレトは良くやったと思っているさ。アイツの言葉など気にするな、そっちは俺が引き受ける」

と、もしも直接何かやられたら、俺に言って来いとカイルが太鼓判を押す。

そこへエリシア、

「その聴き込みが戻り次第この処遇とあなたの今後を決めたいのですが?カイル」

言いながらも、エリシアの中では決定していると伝えていた。

「あぁ、俺か……」

濁すカイルにピシリとエリシアが、

「カイル、あなたが決断してくれないと、またクレトのような人が出るのですよ」

と、余計な気苦労をする人を出したく無いと言ったつもりが、クレトには上手く伝わらなかったようだった。

「今回の事は本当に申し訳ございませんでした。この処罰はカイル様で無く私だけに留めていただきたく」

「ハハハ、ほらねカイル!だから」

笑いを堪えられなかったエリシア。


一応失笑したことをクレトに詫びたあと続けた、

「そして決めた以上は、あなたと運命を共にして行く覚悟はできていますから」

俯き、そう言うエリシアだった。

「分かった、お前がそう言うのなら、これからはお前だけの剣となろう」

片膝をつき拳を胸に当てそう誓うカイルだった。



そしてそこへ、

「ちとワシもひとついいかの?」 

アベラルドが待ち構えたように発した。

何が言いたいのか分かっているエリシア。

アベラルドから目を逸らせ、

「なーに?まかか爺、まさかもう荷が重くなったんじゃないでしょうね?」

と、笑いを一生懸命に堪えた。

「これ、今度はお転婆エリスが出て来おったか!」

もうダメだった。

またしてもクレトをそこに残して、大きな笑い声は部屋の外、その回廊にまで響き渡っていた。



そして、その回廊の蝋燭に揺らめく影がひとつ。

歯軋りをしながら恨めしそうに、その厚い扉に耳を擦り付けているのだった。



そして翌日、調査隊の報告を元にクレト並びにカイルの処遇を決める時がやって来た。

議事進行は中立であるアベラルドが取り仕切った。

「それでは、報告を」

とアベラルドに促され、話し始める調査隊の話の筋は、やはりクレトの申告通りだった。

その利害の無い者の客観的な意見は、重要な判断材料となり、あとは見物人の意見が事を左右することとなった。


話によると、クレトがあの死闘の中でさえ、村人たちから被害者を出さないようにと気遣ったのが伝わっていたようだった。

ここまで話を進めて、

「如何ですかな、これを踏まえて何か意見がござれば?」

と締めに掛かりたかったアベラルド。


意に反するマルセルが、

「如何なる振る舞いも、部下を犬死させては意味がござりませぬ」

まぁ、理には叶っているかもしれないが、それこそ負け犬の遠吠えである。

そんなマルセルに反して、自軍の倍近い人数を相手に、遅れを取らなかったことを考慮すべきだ!と強く訴えるカイル。

そして、不甲斐ない死は日々の怠りの賜物である!とも付け加えた。


コツ、コツ、

と音が鳴っていた。

「控えよマルセル、神聖な場であるぞ!」

刺すような厳しい言葉はエリシアだった。

その音はマルセルがテーブルの脚を爪先で蹴っていたのだった。

この男は昔からの癖で、考え込むと無意識にテーブルの脚を蹴ってしまうのであった。


一同を見回した後、

「私からも一ついいか?」 

と言うエリシアに、黙って手を差し出し了承する議長。

「そもそも、軍事に支えるとは、その死さえも辞さないと言うことだ」

と話し出すエリシア。 


彼女の言いたい事は、

ここへは死を覚悟の上で来たはずである。当然送り出した親族も同様だ。

それをマルセルは貴族の顔色を窺って保身に走るのか?

と言うのであった。


そして、

「このフェルクイエスの栄光に仕え散っていったものの覚悟を、お前は踏み躙ると言うのか?」

と、カイルが発するような言葉で強く締め括ったのだった。


騎士の生き様を軽く見るマルセルに釘が刺され、そして彼はただ黙るより他にはなかった。



そして後日、マルセルにその遺族への死亡叙勲の授与と報告の任命が下り、それに出立するマルセルだった。


厄介払いのできたエリシアたち。

束の間の休息とばかりに、お茶会でもと言いたいところだがそうはいかないようだった。



カサカサと踏み鳴らされる薄褐色の枯葉、それに埋もれた沼地に足を取られるマルセル。

そして、顔にかかる蜘蛛の巣に怯え声をだす。

「何でこの俺が、クソっ!」

セレスタリアに振り向き、恨みに澱んだ目を向けるマルセル。


この旅路でさえ、自分で手繰り寄せた糸だと気づかない彼の辞書には、逆恨みという言葉を説いていなかったのか?



——たとえ、どんな手を使ってでも



この怨嗟を歓喜の声に変えてやると——




                       完


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