第18-1話 〜道への始まり〜
——しめやかに雨は降り注いだ
その灰色の空のところどころは、光が漏れ出そうと膨れ上がっていた。
伸び切った草も、風に揺らされることなく直立していた。
まるでその埋葬式に参列しているかのように……
パウラの埋葬は騎士団の見守る中、幹部の立ち合いの元に執り行われた。
司祭のアベラルドの言葉とともに、棺はその土の中へと入っていった。
皆の祈りがエレスミアの元にいるパウラに届いたことだろう……
埋葬は終わり皆が立ち去った後も、クラウディアは独り雨に晒されながら、そこに佇んでいた。
その頬に雨とは違うものが伝う彼女は、ただその埋め戻された土を茫然と眺めていた。
そして墓地の入り口の塀には、クラウディアを見守る二つの影があった。
それもまた、しくしくと降る雨に打たれていた。
そんな埋葬に関しても一悶着が起きていたのだった。
それは二日前のことだった。
問題だったのは、パウラを埋める場所だった。
そこはフェルクイエスの最上位者の隣、カイルと同じ区画だった。
それに反発したのは、例のマルセルだった。
しかし、その腹は見えていた、
「何故です、慈しみの子とは言えあそこは我らにとって特別な場所。ましてやあの英雄カイル様の眠る地ですぞ!」
と、何でもカイルの名を出せばいいと思うマルセルのその言葉に、この男らしからぬ浅墓さがあった。
(ふん、何がカイル『様』だ、生前はあんなに目の敵にしていたものを)
今にも怒りの虫が腹から飛び出しそうなセリナだった。
「そうね、セリナあなたはどう思うのかしら?父でもあるし、いずれはあなたもそこに入るものとして……」
気にする素振りを見せながらも、同意を求めるようにエリシアが聞く。
「は、エレスミア様のご子孫とあらば私も、いえ父もきっと光栄にと存じます」
と答えるセリナ。
その言葉を受け、エリシアは賛同を促すようにマルセルを見つめた。
「しかしですな、本当に慈しみの子とは限りませぬし……」
どうしても納得のいかないマルセル。
それに業を煮やしたセリナが、
「マルセルよ、どうせお前は自分もそこに埋めて貰えるなら?と言いたいのだろう!」
と、絹着せず遠慮なく指摘した。
先程のカイル『様』がまだ気に入らないらしく、いつもより当たりがキツい。
「いいえ、滅相もない。私などがあのカイル様と同じ場所などと」
腹を見透かされ動揺に声を震わす。
「うーん困ったわね、では皆の意見はどうかしら?」
アベラルドは意義なしを表明し、次いでクラウディアに黙って視線を送るエリシア。
「わたくしも異論はありません。パウラ様には並の少女とは一線を画すものがあると報告を受けておりますので」
ほう、もっと続きを聞かせて欲しいとエリシア。
「そして何より、あのクロエ様やリアンでさえ手懐け、あ!?失礼致しました。クロエ様にも怖がらず親しくされていたご様子。それはまさに恐れの心よりも、赦しの心があの方を包み込んでいたからだと考えられます」
クラウディアはマルセルを牽制するように、パウラを敬うような話しぶりをしてみせた。
話を畳み掛けたいエリシアは、
「それでは皆の意見を纏める事とします。宜しいですね?」
と、決定なのだが一応の断りを入れた。
奥歯を噛み締めながら、皆の顔を一人ずつ交互に見廻すマルセル。
その膝に乗せられた震える拳からは汗が垂れていた。
そして賛成起立を促すエリシアの言葉に立ち上がる面々。
一人だけいつまでも逆らう訳にいかず、マルセルも渋々と立ち上がるのだった。
解散の後、長い回廊をひとり歩くマルセル。
(忌々しい、あのガキめ!この俺にあんな口を利きおって、今に見ておれ!)
と、まだまだ彼の込み上げる憎しみは収まらない。
それもその筈である。
それはフェルクイエス発足直後のあの日まで遡る。
——その日は大雪だった
昨日から太陽が隠れている、と思った矢先のそれだった。
「いやぁ参ったな。こんなに積もるとは、これじゃあ吸血鬼にでもなって飛んだ方がマシだな?」
言いながら、はははと笑い合う二人の男がいた。
「そうか、ではお前も吸血鬼にしてやろうか?」
カイルの顔は怖かったが、内心は冗談のつもりだった。
「いえ申し訳ありません。カイル様、決して揶揄した訳では?」
怯え気味に言うのは、調査から戻ったばかりのアダンだった。
しかしその後、二人は共に吸血鬼になるのだが、この時は夢にも思わなかったのだろう。
そんなやりとりの中、
「大変だぁ!」
と空から急降下にやって来たのは、まだ若い吸血鬼だった。
そこにカイルを見つけると、
「カイル殿、今麓の方で雪崩が起きたようで、村人たちが家屋に閉じ込めになっているそうです」
そしてそれを偵察隊より聞き、その者たちを救護に向かわせたとの報告だった。
そして続けて、
「申し訳ありません!勝手に……」
と、謝る彼にカイルは、
「何がだ?クレト」
と不思議そうな顔をした。
「いえ、自分の判断で救護に向かわせてしまいましたので、マルセル様に」
クレトと呼ばれた若い吸血鬼が言い淀んだ。
クレトは自分のせいで、カイルがマルセルにまた嫌味を言われるのでは?と危惧したからだった。
そんなクレトを気遣い、
「ハハハ、俺がとうとうお前に心配される日が来るとはな?」
と言って笑ってくれたが、クレトには笑えない訳があった。




