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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
2章 カサルモス編

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第17-3話 〜新たな危惧〜


それを見て、

「まあ、私との食事中にどなたかのことを思って笑っているのかしら?」

と揶揄うエリーの目が、僅かな嫉妬を仄めかしていた。

「いやぁ、すまない子供の頃のことを思い出していた」

と、その内容を話すリアン。

「まぁ優しいお母さま!?一度お会いしてみたいわ」

エリーの素直な感想に、

「ふっ」

と鼻で笑うリアン。

彼の母は130年も前に死んでいるのだから、笑うのも無理はなかった。


そして美味しい料理はまだ続いた。

鼻に心地良い香りや、深い味わいが会話のソースとなり、この上ない甘美な夜へと仕立て上げていった。


二人はその余韻の中、花屋まで続く星のトンネルを潜っていった。

そのトンネルの先には、地面からひょっこりと大きな月が半分だけ顔を覗かせていた。



夜風はまだ冷たい——


そんな冷たさに責任を押し付けて、エリーはそっとその黒い外套の中に忍び込んでいくのだった。




——不意に甲高い声が村の空気を割った


その声に呼び戻されるように『今』へと帰って来たリアン。

そして、声の方を振り向くと、そこに逃げる二人の女の姿があった。

「へへ、待ちやがれ」

と、頭の禿げ上がった男が、下品な声で後ろから追いかけていた。

「さあ、もうお終いよ!」

と、空から降りて来た栗髪の女が、正面を塞いだ。


追っ手側はどうやら吸血鬼のようだった。

「いよう、手間取らせやがって、俺はこっちのをいただくぜ」

と、舌舐めずりをする禿げ頭を、不快な目で見る栗毛。

それに向かって禿げ頭が、

「何だよシャリイ、久々の女なんだいいだろ。おめぇは毎晩ワンヴュエズとやってんだろ?」

と、下品に輪を掛けながらそう言った。

「ふん、大切なのは、隠すか……どうかよ」

艶やかさが妖しく漂う栗毛の言い回しだった。


そこへもう一人の男が追い付いて、

「勝手にやってろ」

とばかりに残った一人を拐おうとしたところへ、

「よう、今日は大漁だな俺にも分けてくれないか?」

と、リアンが近づいて来たのだった。

「あぁ、なんだ?」

と振り返る禿げ頭を大剣レイキスが、ツルッと跳ね飛ばした。

陽の光を跳ね返し飛んで行く禿げ頭、残された首からは大きな血柱が上がった。

「ぎゃぁぁあっ!」

と泣き叫ぶような声を立てる女たちは、血に不慣れなようでそこに気を失った。


チラッとリアンを見るシャリイと呼ばれた栗毛の女。

そして空へ逃げ出した……と思いきや声なのか音なのか、いずれにせよ耳を塞ぎたくなるような高音を発するのだった。

「あぁーー」

それは、果たして喉から発せられるような音なのだろうか——


(なんのつもりだ?)

と怪訝そうに眺めるリアン。

残った男が口角を上げニヤついたのが、視界の隅に入った。


その時、雨雲が立ち込めたように、空が暗くなっていった。

しかし、それは雨雲ではなく、吸血鬼たちの襲来だったのだ。

続々と空に集う吸血鬼たちが、コリオリの力を受けたようにクルクルと回り出す。

そして、さっきの高音は仲間を呼ぶ、信号のようなものだったようだ。


そこにリアンを超えるこれまた大きな男が、

「ほおう、こいつがやりやがったのか?」

と、禿げ頭が剣を抜く間もなしに殺されたと見て感心するように言った。

「ええ、そうよワンヴュエズ」

それにシャリイが応えた。

「殺すには惜しい男みてぇだな?こいつは」

と、ワンヴュエズが不敵な笑みを浮かべ、一部始終を見ていたシャリイに同意を求めた。


三十を超える吸血鬼の大群。

それが、空を陸をとリアンの周りを埋め尽くしていった。

そして、リアンと睨み合う巨人ワンヴュエズ。


そこに気を失い横たわる女たち。

見知らぬ女とはいえ、この地で命を奪わせるわけにはいかないリアン。


もう二度と……



この新たな脅威にリアンの血は昂り、そしてその瞳はまた赤く染まってしまうのだろうか——



                         完


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