表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
2章 カサルモス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/59

第17-1話 〜新たな危惧〜


紫の花が囲む湖を離れ北へ、ノルヴィエルの中心部へと向かうクロエ。



——のんびり二人旅と洒落込もうかね


と、相変わらず肩に居座るリスにお伺いを立てた。


どこか適当な森にでも置いていこうとしたのだが、いつまでもついて来るので、仕方なく連れて行くことにした。


そして『ピュチェリ』と名をつけたのだった。


思いの外、便利でもあった。クロエには木の実の違いがまだ分からない。

リアンを見習い食べられる木の実を取ったつもりが、

「お前は腹でも壊したいのか?」

とか、

「吸血鬼、あ……いやお前なら平気か?」

などと、いつもリアンに揶揄われて辟易していたのだった。

それがこのリスのピュチェリはクロエの元に、食べられる木の実を運んで来てくれるのだ。

彼女は大いに喜んだ、


もう、リアンなんていらないっ——


と。

そんな積年の怨みを払拭するような声が、林の小径に響き渡っていったのであった。




その頃、トゲトゲの葉を付けた木々の間を抜けて行くリアン。

時々その葉が頬を掠め血が滲んだが、この大男には三歩で充分だった。

そんな僅かな間に傷は消えていた。



——やはりどこまでも青いなぁ


そろそろ初夏の便りがあちこちの地方に届いている頃だった。

しかし、この男と来たら季節を問わず、その黒い外套に身を包んでいた。

吸血鬼だからといって、寒がりという訳でもないのだが……


ようやく緩やかな坂へと落ち着いて来た。

ここまで道を占拠してきた草も、ゆく手を阻むのを諦めたのか?

道の傍へと退き乾いた土が解放され、ちらほらと姿を現してくるのだった。

そこに歩を進めるリアン、

(もうここには咲かないんだな?)

あの赤い花を探した頃が、懐かしさとなり胸を締め付けた。

そんな懐かしさを拭い去る景色が、彼の目の前に広がるのだった。

そこは山道を抜けた先にあった。



見渡す限りの荒廃——


焦げを残す木片、崩れ落ちたレンガには灰のこびりついた跡が、そして大きく抉られた地面。

散らばる一つひとつの破片が、あの惨状をそこに置き去りにしているのだった。

ここは地の果て、いや最果てか?


これを元に戻すことができるのなら——


(ああ、ここでエリーが……)

遠い記憶が胸を揺すった。

頭から血の気が引くように、意識もボーっと掠れていった。

何処かへ引き込まれて行くような、或いは果てしない空間の中に、どんどんと膨れ上がっていくような、何とも言い難い感覚に苛まれていくのだった。


そして村に着くと、足が勝手にリアンを花屋『フロール・ルミナ』跡地へと運んで来た。

(身体に沁みた習慣とは恐ろしいものだ)

とリアンは訝しんだ。

かつてはさっき通って来た山に、あの赤い花を探しによく行ったものだった。

そしてその帰り道、その緩やかな坂を抜けると、あの翠玉の瞳がいつも眩しい笑顔と共にそこにあった。



エリー、いま……帰って来たよ——


掠れた色の赤土が舞い上がる。


そこに膝を折るリアン——


かつて、赤獅子と化したリアンの膝を、こんなにも簡単に地に着けたモノが有っただろうか?

人を責めることさえ知らないエリーの、その思いが残り香となって、この比類なき強者を地に崩れさせたのであった。


荒れた地面に煤けたバケツが、過ぎた日の面影を残し転がっていた。

(あれは!?)

そこに、レモンイエローだったバケツに水を汲み、額の汗を拭うエリーの姿があった。


ぽと、

怨嗟にまみれた土が、その涙を飲み込んでいった。

それと同時にリアンの心もまた、

吸い込まれていった……



——十数年の時


過去の記憶へと……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ