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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
2章 カサルモス編

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第16-3話 〜ひとの引きずるもの〜


彼の怒りの原因は、先ほどのカザムの葬いにも起因していた。


ただの小隊長が総督直属近衛団を殺したのだ。これは重罪、正に極刑に値した。

しかし、テオドラは無罪どころか、十三人の吸血鬼討伐にしては多過ぎるくらいの褒賞を手にした。


それに納得のいかないアダムノアは、

「なぜテオドラは罪に問われないのですか?それに総督を守りお仕えしたカザムの葬儀まで出来ぬとは?」

と、ヴァルグラムに対して珍しく声を荒げた。

ただ煩いとばかりに、

「予の決めた事が腹に据えかねるというか?」

我に返り慌てるアダムノア、

「いいえ、滅相もございません。しかし、我が息子の葬儀だけでも何卒」

まだ食い下がる。


「そんなにやりたければここを去ってすれば良かろう」

「そそ、そんな……」

冗談ではなかった。

ここを去るとは、サングィナトーレスを抜けることを意味する。

(ここを抜けたらわしは『救済』されるではないか!?)

「いいえ、それだけは、それだけはご容赦を」

と、必死に床に額を擦り付けた。

「ならばもう良いな、それに近衛団ともあろう者が、自らの剣で刺されるとは何たる失態か?その親であるお前を、奴を推挙したお前を、罪に問わぬだけ感謝するが良いぞ、いいな!」

と言い放つヴァルグラムだった。


こればかりは当然だった、ヴァルグラムが正論だ。

相手に剣を奪われる近衛団など総督を守れる筈がない。

そして前のめりに倒れるのが騎士としての本懐。

「ふ、あれは常に死を覚悟した者の死に顔ではなかった。お前の甘さがあやつに乗り移った証ではないか?」

ダメ押しの言葉がアダムノアを頭から押し潰して来た。

しかし、武人の心構えなど文の彼にとっては理解の外て


それが今でもシコリとして残り、テオドラを憎む理由でもあった。



そのころヴァルグラムの寝室では、テオドラの無傷を喜びながら、撫で回すヴァルグラムがいた。

そんな喜びの声にさえテオドラは、あの時の緊張と屈辱を呼び戻していた。


彼女の目の前に、雄弁に振る舞うセリナの姿が現れた。

ビクッ、と身体を一つ震わすテオドラ。

それに嬉々としてさらに指を忍ばすヴァルグラム。

しかしテオドラの心は、セリナの幻影に怯えた自分自身を睨みつけていた。


そこに、ぼ〜と浮かんだ白い影。

「ああ!?」

遂にテオドラは声を上げてしまった。

それに、

「ほぉ、そんなにか?」

と、ヴァルグラム。

しかし、そんな言葉はテオドラには届いていない。

そこにはテオドラを脅威とも思わないクラウディアの姿があった。

(貴様っ——)

テオドラだけではない、その背後には数十の騎士たちが控えていたのだ。

(それでも奴は、、、)

そして、更に頭に浮かんだ記憶が甦り、それはもはや羨望とも呼べた。

(いや違う、あの魔王に対してでさえアイツは……なんという豪胆さか——)

と、また身体が震え鳥肌が立った。


それにヴァルグラムが勘違いしたのも束の間、

「どうした、何かつかえたものでもあるのか?」

と、いよいよ不審を抱き出した。


テオドラは素直に、フェルクイエスのニ柱との経緯を話した。自身の恐怖も包み隠さず。

「ほほうそうか、この夜叉でも恐れるものがあったか?」

それを聞いたヴァルグラムが笑い飛ばした。

その声に、

(やはり、“あの小者”とは違う)

と、アダムノアを思い浮かべることで、嫌悪が恐怖を追いやってくれた。


更に彼女を安心させようと、

「気にするなテオドラよ、いずれ吸血鬼共を手懐けられるやも知れん。あの赤獅子でさえもな!」

ほほほと高笑いをしながらテオドラに覆い被さるヴァルグラムであった。




青ざめた静けさの上に昇る月。

冷たくペールな光は、枯れた木々に無常を照らした。



世界の均衡も、誇れるテオドラの肉体も、この雑木の枯木のように崩れ去っていくのだと……




人が踏み荒らしてしまったその地に——


あの花が咲く時が来るのだろうか、、、




                                                     完


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