第15-2話 〜風に背中を押されて〜
影が一目散に目指したのはフェルナスの村だった。
村に入った所に一本の枯れ木があった。それに立ち追跡者の有無を確認する。
見渡す景色に、かつては彩ったであろう丘が、その上に信仰の崩れた跡が、
「けっ、あいつらの教会か?」
それに吐き捨てる影であった。
ガチャと、
黒焦げのレンガの上に飛び降りる影。
破片が足に食い込むのをものともせず、それを蹴散らしながら駆け出した。
そこから南の方へ下った所に、領主の屋敷だったのだろうか、大きな廃墟があった。
その崩れた二階の屋根の中へと、その影は消えていくのだった。
相変わらず青い空を眺めながら、ちょうど山を下ったリアン。
(雲がないと寂しいな、真っ白じゃなくても少しくらいは欲しいな)
何気ない軽い思いが頭に浮かんだ。
もしも雲を穢れと例えるなら、心の雲こそが、人柄となるのではないか、、、
(なら俺は真っ暗な曇り空だな)
それは、ただ自分の境遇を、生き方を、思い浮かべたのだろうか……
それとも、立ち込める暗雲を察知していたのだろうか……
何れにせよリアンの心に晴れ渡る空が広がることは、白い雲が浮かぶことは……
そんな日はやって来るのだろうか、、、
——白一色という言葉が似合った
そのものだといえようか……
この白い神殿の壁も、囲んだ白樺も、白い霧に包まれ、
そして厳かに歩を進める者たちも白に身を包んでいた。
——ゴォーン、ゴォーン
荘厳な銅羅の音に襟を正す一同。
——キィイーン、キィイーン
張り詰めた空気に鳴るベルの高音。
その細かな揺れが参列者の心に響き、この見知らぬ死者への哀しみを募らせていった。
清らかな白い泣き声を誘って——
祭殿前の壇上で合唱のように祈りをあげる白装の僧たちがいた。
その中央にはアベラルドの顔があった。
その祈念に徹した厳しい表情には、あのだらしないとも言える笑顔の影すらなかった。
今日はパウラの葬儀の日だった。
もちろん群衆はなぜ異国の見知らぬ少女を、こんなにも手厚く葬るのか、皆目見当がつかなかった。
しかし、総帥や大将軍たちが率先して行われた葬儀だ、彼女らに心酔する群衆はただ従い、そして心からその少女を弔った。
壇上の僧が声を止めた。
そして、アベラルドの荘厳な声が、送り出しの言葉を述べる。
そこに群衆も、居並ぶ僧までもが跪き、有難く拝聴した。
群衆の最前列に、白い翅を折りたたんで跪く女性がいた。
光り流れる髪に、溢れる気品に、人はそこに女神の姿を見出すのだろう。
彼女こそ総帥エリシアであった。
元々アベラルドはノルヴィエル地方に留まらず他国にさえ、その名を轟かせるほどの大司教だった。
普段は揶揄うエリシアであったが、そんな彼の宣託を心して拝聴するのだった。
宣託が終わると壇上の僧たちに入れ替わり、エリシアやセリナたちがそこへ登った。
すると更なる緊張が会場中を駆け巡り、無言の群衆の目が、彼女らに集まった。
それは、この葬儀の意味の開示を求めるように見守るのだった。




