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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
2章 カサルモス編

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第14-3話 〜笑顔の形〜


「お気遣いくださり感謝致します、陛下」

と断った上で、その後にあの少女を死なせてしまった失態を謝罪したかった。だが、それは自分では無く、総指揮官のセリナの役目であると口を噤んだ。


(打ち明けたい、この不甲斐無さを……)

そんなクラウディアを見越したエリシアが、

「そうそう、セリナあの少女を丁重に弔ってあげないとね。せめてエレスミア様の元に辿り着けるように」

と話し易く話題を振ったつもりなのだが?



傷は深かった——


『晴れ渡る晴天』

そんな言葉がクラウディアにはお似合いだと、彼女を知る者なら誰でもそう思ったはずだ。

それが今はこんな場にいてさえも、テーブルの白い布を濡らしていった。

居並ぶ一同、誰一人として彼女のそんな涙を見たものはいなかった。


エリシアでさえ戸惑った。

この気丈な総帥が困ると頼れるのは一人しかいなかった。

そして、そっとアベラルドに目をやるエリシア。

すぐに察するアベラルドは恭しく立ち上がり、

「さて、双月閣下には御足労じゃがもうひと仕事お頼みしたいのですが?」

大将軍のセリナでは憚られるとして、クラウディアを指名したのだった。

「はい、なんで御座いましょうか?司祭さま」

と、言う声にはやはり張りがなかった。

そして皆に一礼をし、アベラルドの後に従って退室して行くのだった。


何か思惑があるのでは?と、エリシアをチラッと見るセリナ。

そこへ、

「あらセリナ端無い。私をそのような目で見て、何か仰りたいのでは?」

と揶揄うように言うエリシア。

そんなエリシアに、

「は、今回の任務が失敗に終わったことを謹んでお詫び申し上げます。これは全て自分の不遜の致すところで御座います」

と、冗談を返す余裕を失くし、落ち込む様子のセリナ。

彼女も内心では事を重く感じていたのだ、それを隠し通したのは気丈と言ってもいいだろう。


そして、沈むセリナを見て、ニタリと笑うマルセルがいたのだった。



黙ったまま回廊を歩く。

長すぎる祭服の裾を、ズズズと絨毯に引きずるアベラルドに行く先などなかった。

しかし、今のクラウディアにはそれが効果的であった。

無理に慰めの言葉を掛けるより、こんな時にどんな要件なの?と疑問が心を占めていくことが、他ならぬ慰めであった。


暫く歩いたのち、

「ささ、着きましたぞ。長旅の上、いろいろなことがお有りじゃったそうで、ごゆっくりお休みくだされ」

と、連れてきたのはなんとクラウディアの居室の前であった。

え!?という顔で、呆気に取られるクラウディア。

そして、まだ合点のいかない彼女は、アベラルドの顔を凝視していたのだ。

「ふぉふぉふぉ、わしの顔はそんなに面白いですかの?」

「い、いいえ。そうではございません」

と、慌てるクラウディア。

「わしにそんな言葉は不要ですじゃ。あなたの方が高い所におられるのじゃから」

優しい笑みは変わらずそう言った。

「いいえそんな、私は一度もそんなことを……司祭さまに励まされてきたお陰で、ここまで来られたのですから」


クラウディアがここに来た、まだ十代の頃から世話になった司祭だ、彼女の素直な感謝といえよう。

「そうですか、あの頃と変わらず心良いお方じゃ。また、近いうちにクロエ様との話でも聞かせてくだされ」

既にセレスタリア中では、魔王と渡り合った話が持ちきりとなっているのだった。

お恥ずかしいと返すクラウディアに、また優しいお爺ちゃんの笑顔だけ残して立ち去るアベラルドだった。



祝席にアベラルドが戻るのを待ったエリシアが、宴の終わりを告げた。


皆が退室するのを見計らって、横に座るグランヴェルに目配せをするマルセル。

そして皆に遅れて部屋を後にするのだった。

二人が人目を忍んで向かった先は、欠席したサイノゼールの居室だった。

グランヴェルが鍵を開けると、そこには病に臥したサイノゼールではなく、鎖に繋がれた彼の姿があったのだ。

そんなサイノゼールに向かって、

「そろそろ言う気になったか、奴の妹の居場所を?」

と、詰め寄るマルセルだった。


細々と灯る蝋燭の灯に、薄気味悪く笑うマルセルの顔が浮かび上がる。


そんなマルセルの影が、壁に大きな闇を映し出していた。



暗く光の通らぬ深い沼の底、



そんな闇を……




                         完

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