第14-2話 〜笑顔の形〜
——カツカツカツ
と豪胆な靴音。
それが聞こえ、少し怯え気味になる司祭。
その靴音の主が誰だか分かりきっていたからだ。
そう、テオドラである。
そして部屋に入る前からその声は、大きく響いてきた。
「私の大事な部下を軽々しく扱ってくれるなぁジョアモズよ」
そして無遠慮に入室しソファに、でんっと腰を下ろし、そしてテーブルに靴ごと足を乗せるのだった。
「な、何を言うほんの冗談じゃ、のお、いつものあれよ、なぁ?」
当の遣いに言ったところで返事をする訳もない。
「どうせ今夜の楽しみがなくなってこの者に当たっていたのだろう」
皮肉に笑う冷たい目がそう言った。
「もうよい、さあ始めるぞ血が台無しになるわい」
この好色も真っ直ぐに刺すテオドラには勝てぬと見え、そそくさと引っ込んでしまった。
テオドラの去り際の、
「邪魔したな」
の一言が、どこかこの護衛たちを憐れむように聞こえたのは、思い過ごしだったのだろうか。
日に焼けて薄くなったクリムゾンのカーテンがほんの少しだけ揺れた。
隙間に見え隠れする指を、テオドラに見られているとは、つゆ知らずのジョアモズだった。
——グゥワーン、グゥワーン
とセレスタリア中に響きわたる銅羅の音。
木々の間から無数の鳥たちが、一斉に飛び去っていった。
——パァーパパラパー
管楽隊の盛大な演奏と、観衆の割れんばかりの歓声に出迎えられ、その一団は帰還した。
「アークセントリオン閣下、並びにフェンガーリア閣下の御帰還にござーい!」
グゥワーン、グゥワーン。
後に続く騎士たちの最後尾が神殿広場に入っても、その拍手と歓声が止むことはなかった。
観衆に向かい、高く大きく手を振るセリナへと、その喝采はさらに盛大なものとなった。
しかし、その横にそれとは対照的に、薄雲に覆われた太陽のように、どこか浮かない表情のクラウディアの姿は、その歓声の中に埋もれていくのであった。
——ブゥアァァン
と、最後に銅羅がひときわ大きな音を鳴らし響き渡った。
すると一同は静まり返り、そこに跪くのだった。
そして、優雅な足取りで壇上に立つ総帥エリシアの姿があった。
そのエリシアの胸に真っ直ぐに眼差しを向け、
「セリナ=ヴァルテリウスが只今ここに帰還致した事をご報告申し上げます」
その身体からは想像もつかない程の、太く大きな声で帰還の辞を述べた。
その凜とした振る舞いも相まって、さすがはと観衆から再び大きな拍手が上がった。
無事の生還の祝辞が終わると、その中枢たちは礼拝堂で祈りを済ませた後、回廊の先の宴席へと向かった。
長いテーブルの奥に立ったエリシアが皆をひとこと労い、そして席へと促した。
上座のエリシアから見て、
右手前からセリナ、クラウディア、カエサルと続き、
左手前からはマルセル、アベラルド、そしてグランヴェルと席に着いた。
何かを訝しむ様子のクラウディア。
(食器が置いてあるのに?)
何故か空席があり、疑問に思ったのだ。
それに気づいたエリシアが、
「それを」
と、給仕に下げるように伝え、
「サイノゼールも来る予定でしたが、急な病みたいで……祝いの席に申し訳ないのだけれど」
とその訳を話した。
宴が進むにつれ、
「奴らに先を越されたのは痛かったが、閣下たちが無事でなによりですな」
と相変わらず含むようなマルセルが場を乱す。
そんなマルセルの無神経さに、さらに落ち込むかのクラウディア。
「クラウディアどうしたの浮かない顔をして、戻ってからまだ一度もあなたの笑顔を見ていないのだけれど?」
心配が言葉になるエリシア。
ただ俯き嘆くようなクラウディアだった。




