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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
2章 カサルモス編

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第14-1話 〜笑顔の形〜


ゴソゴソと胸の辺りに何かが触れる感触がして、目を覚ましたクロエ。


(何?)


と、まだ寝ぼけた手がパタパタと探ると、ふわふわと何やら柔らかいものに触れ、


「ギ、ギギ」


と、泣く声がした。

いよいよ何だ?と訝るクロエが起き上がると、そこには野リスが居たのだった。


クロエが触っても、身体から落とそうとしても、リスは逃げようともしなかった。

それはクロエの傍に置いてあった木の実が目当てだったのだろうか?

しかし、昔のクロエならとてもリスが寄ってくるとは思えなかったし、今は起きてもまだ逃げない。

(私も随分とナメられたものね)

そう言う割には顔は笑っていた。



昨夜のリアンの話を聞いてから寝付けなかったクロエ。

対照的に、話を終えたリアンはすやすやと眠りについた。

そして今起きてみると、リアンの姿は無く、代わりに朝食の木の実と置き手紙、そしてリスがいたのだった。


試しに手を差し出してみる。

クロエの目を見つめ、次いで手の匂いを嗅ぐような仕草をしたあと、その手に乗っかってきたのである。

こぢんまりとした姿に、心をくすぐられ微笑むクロエ。


——可愛いわね


と、思ったのも束の間、すぐに我に返り周りを見回して、

(あの男がいなくてよかったわ)

こんな所を見られていたら……

魔王がどうとか、お前でも女らしいな?とか揶揄われていたのだろうと思うと、少し腹が立ってきたのだった。

(あ!?私は姉にあたるんだからねぇ、今度そう言い返してやろ?)

と想像してニヤつくクロエだった。



リスを肩に乗せ逃げないのを確認すると、木の実の下に敷いてあった紙をとる。

『用ができた、ヴァルミナ平原で落ち合おう』

とだけ書かれてあった。

(昨日のことが?)

あんな話の後だ、顔を合わせづらいのかな?とも思ったが、大して気にも止めず、木の実を少し齧ってリスにも分け与えるクロエだった。



ここはノルヴィエルでも南端に位置する所で、近くに湖があり、その周りを彩る草と紫の花が印象的だった。

 

その冷たい水で顔を洗うクロエ。

なんと水面に映った肩には、まだリスがちょこんと座っていた。

それを忘れバシャバシャと水を跳ね上げるクロエ。

その水に濡れて、クロエと一緒に冷たそうに身震いをするリスを見て、

「ははは、あんたまだいたんだね?」

と、悪びれる素振りのないクロエの耳たぶを引っ張るリスだった。



そんな愛らしさを映す水面も、湖底の暗さまでは映しきれなかった。





——ヴァルデ・ソンブラ


ノルヴィエルの北東の山岳地帯、その麓に寂れた雑木林があった。


相当に無理をさせたと見え、馬がかなり疲弊していた。

今にも死にそうな馬に更に鞭打ち、なんとか目的地に辿り着いた。


麓の岩山と掠れた絵のような雑木林に隠され、そこに神殿はあった。

声もなく崩れ落ちる馬に目もくれず、神殿の中に駆け込む黒い影。

「セントリオルム・テオドラ様よりの遣いで参りました。司祭殿にお目通を」

そう告げると、祭壇手前の部屋で待つようにと指示されるのだった。



椅子に掛け、今日はどのくらい待たされるのか?と思案し出すも、すぐに無言のドアが開いた。

(こんなに早く来るとは?)

余程この血が重要だということなのだろう。


「どれだ早よ出さぬか」

相変わらず横柄な男で、挨拶も礼儀もなく言い放つ司祭だった。

しかし立場上、

「は、こちらに御座います」

と頭を下げつつ、手にした壺を差し出した。

「何じゃこれは、娘はおらぬのか?」

不服そのものがまさに服を着ていた。


(娘、まさかテオドラ様か?)

不審に思いながらも、

「テオドラ様なら……」

と言い掛けたところで、

「テオドラが女か?この馬鹿者めが!」

と、これは想像通りの反応と言えたが、その後が実に不快だった。

「ほれこう柔らかくて、すべすべの若いのがおったのじゃろ?ええぃお前が取りに行った小娘じゃ早よ出さぬか!」

テーブルを手で小突きながら声を荒げた。

しかも『取りに』とは物じゃないか?

「は、例の少女なら故有りましてテオドラ様が……」

と、事の顛末を話しだした。


ついにテーブルを蹴った。

それが遣いの者の足に当たってしまい、反射的にムッと顔に出てしまった。

それを受け、

(まずい!)

と心で縮こまる司祭。

小者とはこういう男のことをいうのか、立場の上にふん反り返る。


よくテオドラが軽蔑していたのを思い出し、少しニヤけた。

それが小馬鹿にされたようで癇に障ったのだろう。

「何じゃ貴様。含む所があるのか?」

と、遣いに向かって言ったのだが、自分の後ろに控える護衛たちを見ながら、そう言葉を発したのだった。

この男の頼みの綱がその護衛なのだろう、なんとも小者らしい所業だった。


遣いはそんなことを気にも留めずテーブルを直し、壺を更に司祭の方へ押しやった。

(早くここから帰らせてくれ)

それが今の願いだった。


しかし、司祭はまだ腹の虫が治らないと見え、

「色白でさぞかし可愛いと聞いて楽しみにしておったのに、その髪を引っ掴んで泣き喚かせ……それをテオドラの奴め!」

声に出ていると分かっていないのか?

なんとも恥ずかしげもなく話す好色だった。

そして、遣いの者と護衛が互いに目配せをして、呆れていることさえ気づかない司祭であった。


その壺をなかなか受け取らない司祭にイライラが募る、

(こいつはせっかく早く出て来ても結局これか?)

辟易は心だけに留まらなかった。

「なんじゃ貴様の不満そうな顔は、お主をオルヴェウス様に捧げてもよいのじゃぞ!」

それで威厳を保てると思ったのか『救済』の名を出し処刑すると脅してきたのだった。


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