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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
2章 カサルモス編

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第13-3話 〜カサルモスの夜〜


——静けさに溶け込んでいく時間


それを咳払いでもするように、焼けた木がパチりと爆ぜた。出来るだけ自然に続きを催促したつもりだろう。


「そこには、ズタズタになったエリーが……」

苦しい記憶を辿るその言葉は重く、そして力がなかった。

目を覆いながらリアンは、

「見る影もなかったさ。既に息のなかったエリーをただ抱きしめたよ……」



そして泣いた——


吠えるように……


助けに行けなかった自分を責めた、


そして呪った。



——どうして、どうして、こんな優しいエリーが!?


多くの人に救いの手を差し延べて来たエリーが、俺を救ってくれたエリーが、



何故だ——



やがてリアンの目はあの色に戻っていった。


「こんな世の中なら俺が壊してやる!エリーのような人が傷つけられるのなら、こんな世界なんて要らない!そう思ったさ」

と、胸の内を語るリアン。

切なくやりきれない思いが、クロエにも伝わった。

「呪ったさ……だがそんな時、エリーの優しい声が頭の中に……」

そこまで話すのが精一杯だった。


止めどなく流れ出る涙、唸りだす嗚咽。


かつて赤獅子と恐れられた男の姿はそこには無かった。

それでもそんなことなど、リアンにはどうでもよかった。


そっとリアンを見つめながら、

(なんだったんだこの男を仇と思いつめた日々は……)

リアンの一途なエリーへの思いがクロエの心を打った。


そしてクロエもまた静かに涙を流していた。



何も言えない時が、月を覆う雲と一緒に流れて行った。

この夜が明けても、リアンの苦悩の闇は明けはしないのであろう。


それからどれくらいの時が流れたか、

話を聞いていた月も既に居なくなっていた。


そんな暗い夜に、クロエもまた優しさを取り戻していた。

「ごめんなさい。こんな時にまた辛い過去を思い出させてしまって」

パウラの死の後だ、リアンもまた痛み悲しんでいるのは同じであった。

「いいさ、お前の苦しみもまた……」

と、愛する者の無惨な死を、それを思い起こし泣き咽んでいた男が、他人を思い憂いているのだった。


何と深い優しさか——


今やリアンにはその慈しみが芽生えている、そう言えたことだろう。


そんなリアンに絆されて自分の素性を明かそうと、

「リアン、今まで黙っていて悪かったけど……」

と、つかえるクロエに、

「お前はエリーの姉なんだろ。だから俺をつけ狙っていた」

そんなクロエに代わりリアンがそう言った。

「知っていたの?」

いや、と答えながらリアンは、

「時々、俺たちを空から見ている赤い髪の吸血鬼を思いだしてな?」

と今度は嘯いて見せた。

「まさか気づいていたの?あんな遠くから見ていたのに!?」

「ああ、あの頃はそれに敵意を感じ無かった。だから次第に見守っているのだろうとも思ったさ。しかしあれがお前だったとはな?」

「なんて」

恐ろしい人と付け加えようとして留まった。

今日ばかりはイタズラを見つかった女の子のように振る舞うクロエだった。



しかし、まだ聞きたいことはあった。

「夜討をかけた奴らは?」

仇を取らないリアンではあるまいと。

「俺が駆けつけた頃には姿は見えなかったな。あの吸血鬼しか」

更に聞くクロエ、

「その吸血鬼を探すの?」

「その吸血鬼を炙り出すために俺は吸血鬼狩りを始めたのさ。まさかお前そいつのこと何か知っているのか?」

問い返すリアン。

「いえ、何も。ただ、カサルモスって人が吸血鬼を狩る物なのでしょ?」

「ああ、あいつらに俺のことを伝え、そそのかした奴らがいるんだろ?」

そしてエリーのことを、吸血鬼を受け入れる異端だとみなして殺したのではないかと語るリアン。


二人は互いの胸の内に仕舞い込んだ軋轢となりうるものを吐き出し、なんとなしに澄んだ表情を浮かべていた。



月に代わってやって来た星が——それを仄かに照らしていた。




やがて夜はリアンを眠りに、

夢の中へと……



「ねぇ、いつか私がおばあちゃんになったら、あなたはどうするの?」

「え、君がか?そうなるのかなぁ」

「なりますとも、あなたの人生に比べたら、きっとすぐですよ」

窓の夕陽を受けるエリーの横顔が、切なく丘を見た。


「そうだな、そしたらどうしようかな俺は?」

「ふーん、私を捨てるんだぁ?へー」

とリアンの顔を意地悪く覗き込むエリーが可愛かった。


それを見て顔が赤くなった気がして、窓辺を見つめるリアン。

「あーら目を逸らしたのね?やっぱそうなんだぁ」

風にそよぐエリーの髪が、リアンの頬にそっと触れた。

「私が死んだら、あなたが他の人と過ごすようになるのは仕方ないけど、私のことは忘れないでね?」

「忘れないさ」

と、夕陽に揺れる赤い花に気を取られていたリアン。


「まあ、やっぱり他の人と!」

と、リアンの胸を叩くエリー。

「でも、それでも今のあなたを無くさないでいてね。誰かがあなたを信じられる、そんなあなたでいてね」

片目を瞑りそう嘯くエリー。



そして、そんな夢を見ながらリアンの頬を伝うものがあった。




——ああ、わかっているさ……エリー





                        完



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