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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
1章 白い綻び編

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第11-3話 〜救えぬ命の取り合い〜


ギシーン!

と、鉄と鉄のぶつかり合う音が鳴った。

こんな強者同士の打ち合いだ、鉄がひしめき合う度に、強い衝撃波を放った。


それは乾いた地を裂き、荒涼たる岩を砕いていくのだった。



何度となく響く剣に、細剣の身のこなしが変わっていった。

これまでの速さ一辺倒の斬撃とは違っていた。


美しく駆け抜ける剣、尾を引く銀色の輝き。

それは速さを増しているはずなのに、返ってゆっくりと見えた。

流れるようなしなやかさが、そう見せたのかもしれない。



左から右上へ緩やかに移動してゆく剣。そして手首を返すと、今きた道に銀の閃光が走る。


動きはまだそこで止まらない。

身体をくねらせながら、しなやかな鞭のように繰り出される蹴りの連続。

跳ねては切り、回っては蹴る。



途切れのない舞のよに——



そしてなんとクラウディアは、それに合わせて見事に”舞う”のであった。

剣が飛んでくれば身を引き流し、相手が引けば踏み込み、やはり鞭の蹴りを放つ。

そんな舞のような攻防が暫く繰り広げられた。


美しい舞に、息を呑む騎士たち。



ダンっ、

地を踏みつけた細剣の足が空を切り裂き跳ね上がる。

今度ばかりは避け切れないクラウディア。


「ああっ!?」

と、前のめりになるセリナ。

蹴り上げられたクラウディアの身体が、空に投げ出されたのだった。


騒めく護衛たちの声。

無力に手を差し伸ばすセリナ。

だが、クラウディアは見る者の声を感嘆へと変えていくのであった。


その蹴りを両腕で何とか受け止めたクラウディア。

しかし、その余りの衝撃の強さに逆らわず、空に投げ出されることを選んだ。

そして、クラウディアは宙で腰を捻り、きりもみにふた振りの剣を、その落下と共に浴びせかけた。


投げられる姿が——

翻し落ちる身体が——

一つひとつ美しかった。



そんな中、ひとり驚愕する者がいた。


あの異形が、クリスまでもが——


と、睨みつけるように食い入るセリナだった。


偶然の見間違いなのか。

いやあれは確かに、アボニコ・ロホだ。


セリナの瞳孔がどこまでも開いて行くように、二人を凝視し続けるのだった。




——遠く幼い日の父と妹の姿


白い靄にボヤけるあの光景が、

(ああ、私は父の期待に応えられなかったのか)


自分にはその舞を習得できなかったという事実が、今もなお重くのしかかって来た。

その自責の念が、羞恥の傷が、セリナを深い闇へと誘っていった。




カキィーン、

二人が舞い出してから、初めて金属が悲鳴を上げた。

その音に我を取り戻すセリナ。

そしてすぐさま、また新しい驚愕が襲った。

二人の余りの連携の良さに、


あれはまさか、対の舞ではないのか——


と。



アボニコ・ロホの対の舞。


本来、男女が互いの呼吸を確かめながら舞うものだった。

初対面の者に成し得るものでは到底ない。

それがあろうにも熾烈な剣撃戦の中で、



——それをふたりが



軽やかに回り、小動物のように縮こまり、バネのように勢いよく延び、跳ね上がる。

光が弧を描いて流れ、蹴り上げる足に湧き起こる土煙が、二人の舞に『色』をつけていった。



戦地に立っていることを忘れ、見惚れる騎士たち。



カチャカチャ、

と鳴った。

震える手を包む籠手の擦れる音が、セリナの心の声を代弁していた。 




——アークセントリオン



その称号は当代稀有、人類最強の証でもあろう。

そんな自負も、今は唯の思い上がりのように思えた。

あの舞はそんな簡単に誰にでも出来る物ではない。

修得できなかった者だからこそ、それが分かる。


羨望の、いやそれはもっと強い妬みに似た感情となり、セリナの怒りを煽り立てていった。



その名声が高ければ高いほど、


それは深い劣弱の念となり、


彼女自身を苦しめることとなっていったのである。



                                   完

第11-3話  〜救えぬ命の取り合い〜


ギシーン!

と、鉄と鉄のぶつかり合う音が鳴った。

こんな強者同士の打ち合いだ、鉄がひしめき合う度に、強い衝撃波を放った。


それは乾いた地を裂き、荒涼たる岩を砕いていくのだった。



何度となく響く剣に、細剣の身のこなしが変わっていった。

これまでの速さ一辺倒の斬撃とは違っていた。


美しく駆け抜ける剣、尾を引く銀色の輝き。

それは速さを増しているはずなのに、返ってゆっくりと見えた。

流れるようなしなやかさが、そう見せたのかもしれない。



左から右上へ緩やかに移動してゆく剣。そして手首を返すと、今きた道に銀の閃光が走る。


動きはまだそこで止まらない。

身体をくねらせながら、しなやかな鞭のように繰り出される蹴りの連続。

跳ねては切り、回っては蹴る。



途切れのない舞のよに——



そしてなんとクラウディアは、それに合わせて見事に”舞う”のであった。

剣が飛んでくれば身を引き流し、相手が引けば踏み込み、やはり鞭の蹴りを放つ。

そんな舞のような攻防が暫く繰り広げられた。


美しい舞に、息を呑む騎士たち。



ダンっ、

地を踏みつけた細剣の足が空を切り裂き跳ね上がる。

今度ばかりは避け切れないクラウディア。


「ああっ!?」

と、前のめりになるセリナ。

蹴り上げられたクラウディアの身体が、空に投げ出されたのだった。


騒めく護衛たちの声。

無力に手を差し伸ばすセリナ。

だが、クラウディアは見る者の声を感嘆へと変えていくのであった。


その蹴りを両腕で何とか受け止めたクラウディア。

しかし、その余りの衝撃の強さに逆らわず、空に投げ出されることを選んだ。

そして、クラウディアは宙で腰を捻り、きりもみにふた振りの剣を、その落下と共に浴びせかけた。


投げられる姿が——

翻し落ちる身体が——

一つひとつ美しかった。



そんな中、ひとり驚愕する者がいた。


あの異形が、クリスまでもが——


と、睨みつけるように食い入るセリナだった。


偶然の見間違いなのか。

いやあれは確かに、アボニコ・ロホだ。


セリナの瞳孔がどこまでも開いて行くように、二人を凝視し続けるのだった。




——遠く幼い日の父と妹の姿


白い靄にボヤけるあの光景が、

(ああ、私は父の期待に応えられなかったのか)


自分にはその舞を習得できなかったという事実が、今もなお重くのしかかって来た。

その自責の念が、羞恥の傷が、セリナを深い闇へと誘っていった。




カキィーン、

二人が舞い出してから、初めて金属が悲鳴を上げた。

その音に我を取り戻すセリナ。

そしてすぐさま、また新しい驚愕が襲った。

二人の余りの連携の良さに、


あれはまさか、対の舞ではないのか——


と。



アボニコ・ロホの対の舞。


本来、男女が互いの呼吸を確かめながら舞うものだった。

初対面の者に成し得るものでは到底ない。

それがあろうにも熾烈な剣撃戦の中で、



——それをふたりが



軽やかに回り、小動物のように縮こまり、バネのように勢いよく延び、跳ね上がる。

光が弧を描いて流れ、蹴り上げる足に湧き起こる土煙が、二人の舞に『色』をつけていった。



戦地に立っていることを忘れ、見惚れる騎士たち。



カチャカチャ、

と鳴った。

震える手を包む籠手の擦れる音が、セリナの心の声を代弁していた。 




——アークセントリオン



その称号は当代稀有、人類最強の証でもあろう。

そんな自負も、今は唯の思い上がりのように思えた。

あの舞はそんな簡単に誰にでも出来る物ではない。

修得できなかった者だからこそ、それが分かる。


羨望の、いやそれはもっと強い妬みに似た感情となり、セリナの怒りを煽り立てていった。



その名声が高ければ高いほど、


それは深い劣弱の念となり、


彼女自身を苦しめることとなっていったのである。



                                                     完



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