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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
1章 白い綻び編

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第11-1話 〜救えぬ命の取り合い〜


偶然の巡り合わせにより、リアンを先導することとなったカエサル。


彼は馬を走らせながら、リアンに聞き返した。

「クラウディア様のことをご存知なのですか?あなた程のお方が」

それがよほど嬉しかったのか、得意気に配下に笑顔を向けるカエサル。


(あの時の小さな娘がか)

と、心の中で嘯くリアンだった。



同じ頃、カエサル隊に追い付こうと馬を駆る女傑二人が、数名の護衛と共にアストラの地に踏み入っていた。


割れた大地が、巨大な峡谷を作り出したこの地。

そこに架けられた吊り橋が、ノルヴィエルとトゥルニエミを結ぶ、唯一の陸路となっていた。



——ゴォォゴォォ、吊り橋の泣き声


底の見えない谷の奥深くから、吹き上がる風。



その吊り橋に差し掛かろうとした時、反対側から押し寄せる騎馬隊があった。

それは、白い騎士を先頭にカラカラと音を立て、橋が千切れそうになるほどの勢いで迫り来るのだった。


左の手を真横に開き、一行を制止するセリナ。

馬がその場で足踏みをする。


あれは——


独り言のように言うセリナ。

「ええ、あれは……」

と、オウム返しのように答えるクラウディアの眉間が狭まる。


おどろおどろしい騎馬の一団。

吊り橋の大きな揺れなど気にも留めず、駆け寄る先頭の騎士。

外套の裾が谷底から吹き上げる風に、ふわぁっと舞い上がった。



——迫り来る地獄の使者


それはまるで羽の生えた馬がまっしぐらに飛んで来るような異様さを醸し出していた。


先頭の白馬が、セリナたちの手前まで来て、嗎ながら大きく前掻きをした。

手綱を引き馬を宥める騎士。

そして橋を渡り終えた数騎がその白馬の後ろに控えた。

その中に、馬の背にうつ伏せになった少女の姿があった。



ダラリ、と地に伸びた両腕。

風のせいでボサボサになった薄金の髪に、無造作に隠された青白い顔。


それは生きているのだろうか——


蝋人形のようにも見えるその顔を、不審そうに見るセリナたち。

それに向かい白馬の騎士が口を開いた、

「我はテオドラ。この行く手を遮るのは何者か?我らを誇り高きサングィナトーレスと知っての所業か!」

と、その名を出せば誰でも恐れるだろうと、タカを括った。


しかし、それは焦りだったのかも知れない。

偵察の報告では『赤獅子たちが迫っている』との話だ。

そんな時に行く手を阻まれたのだから当然と言えようか。


それにクラウディアが答える、

「そちらから名乗って頂けるとはありがたい。ついでにそこの少女も置いていってくれると助かるのですがね」

その一団がサングィナトーレスとなれば、それは例の少女ということになる。


橋の上で地団駄を踏む後続隊。更に焦れるテオドラ。

無言に睨み合う両者。

焼けた突風がそこに割って入り、サンドブラストを擦りつけていくのだった。

やり過ごすテオドラが、

「どかぬとな?」

と、その余裕の声に、相手を同情するかのような橋上の騎士。

クラウディアの目を読み、

「そうか、あれをくれてやれば退くというのか——よかろう」

と、浅黒い肌に白い歯が光り、手が上がった。


馬の腹を挟んだふくらはぎが、そっと押した。

テオドラに近寄る騎馬の上で、引き起こされる少女。


「生きたまま連れ戻りたかったのだが、まあ良い」



この血さえ有れば——



その言葉が少女の耳に届いた最後の言葉となった。


風を焼いた陽の光が、少女の胸で光り輝いた。


それは、奪われたものの大きさを示すように、強く激しく、クラウディアたちの目を焦がしていくのだった。



心の壊れていたその少女は、声もなく惨めに散っていった。

人として死に抗うことも出来ず、ただされるがままに——人形の如く。


痛みも、恐怖さえもなく去っていったのである。


無垢な少女の最後としては、余りにも哀れな死に様だった。




——無音の叫びに散る白い花



クラウディアには、はっきりとそれが聞こえたはずだ。


絶対に散らしてはいけない花の——


失った心を——



慈悲を知らぬテオドラの顔。

それが滴り落ちる血を掬い取ると、

「教団の司祭に届けよ!」

と配下に手渡すのだった。


そしてその配下の進路を開くため、少女の亡骸をクラウディアの方へ、

「ほら、くれてやるよ」

と投げつけるのだった。

咄嗟に避けようとする馬から飛び降り、その亡骸を受け止めるクラウディア。


それは余りにも軽かった。

この見ず知らずの少女の生きた証が、どこかへ捨て去られたように——



——ひとつの希望を失くしたような



脱力感にひしがれて……




お前は人の命を何だと——



見上げるクラウディアの目には、セピア色の土煙の中に浮かぶテオドラの顔だけが映るのだった。



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