第10-2話 〜衝突の予感〜
村外れの、ちょっとした広場に出たリアン。
そこで人のいた形跡を探していると、周りを三十人ほどの騎士が取り囲んでいた。
「んん?」
驚きも動揺もあるはずもなく見回すリアン。
その騎士の一人が、
「貴公は何を探しておられるのか」
と尋ねた。
「で、おまえらは、どっちの奴らなんだ」
と、返すリアン。
フェルクイエスなのか?
それとも——
しかし、内心はどっちでも良かった。
今こうして時間を割くことが、リアンにとって最も逆鱗に触れることになるからだった。
声をかけて来た騎士の周りが騒めいた。リアンの返答が余りに無礼だと言っているようだ。
が、さっきの騎士が落ち着き払って、
「申し遅れました。私はカエサル=ヴァンフィリス、この隊を預かりこの地にさる任務で参りました」
その好青年ぶりが、奴らでは無いことを匂わせた。
「そうか、お前らが何の用でここに来たかは知らんが、俺には俺の急ぎの用があるんでな」
そっけなく返すリアンの態度が、礼を尽くした隊長に何事だ!と五人の騎士が先走った。
剣を抜きながら、騎馬の背から飛びかかる騎士たち。
空から降る剣、正面から突き刺さる槍、背後から声もなく振り下ろされる大剣。
リアンは先に届いた槍を掴むと、槍の主ごと後ろに迫った二人にぶつけた。
そして、
空からの切先を躱すために屈み、頭上を通り越した剣の腕を掴んだ。
そして、それを残る一人に投げつけていったのだった。
——白昼に見た悪夢
精鋭五人を剣を抜かず、
ひと呼吸のうちに倒されてしまったのである。
そこに居並んだ騎士たちに、加勢する暇さえ与えることなく。
ただ、そこにひとり、脳に焼きついたそれをスローモーションのように思い返している男がいた。
隊長のカエサルだった。
さすがはクラウディアから直に任命を受けた猛者といえよう。
冷静にこの大男の分析をしているのだった。
同志をやられても動けない面々。
この未知なる強さにどう対処していいのか思案するカエサル。
そこへ誰とも無く恐怖の名が飛び出した、
「あ、あれはスールレッドだ」
その声に呼応して、間違いないあんな化け物は他にはいないと、口々に恐れ騒めき出すのだった。
(まさかこれがあのスールレッドなのか、いや確かに)
以前、偵察隊より報告を受けた男と酷似していると思い出すカエサル。
名前を呼ぶのを躊躇うほどの禁忌——
それが今まさに目の前にいるのだと思うと、彼らの額からは一筋の汗が、つぅーと流れ落ちるのだった。
そこへ偵察の別動隊が空より急降下に、カエサルの元へ降り立った。
「危急の知らせ故、失礼致します」
と、そこに部外者がいるのに気づかぬほど慌てているのか、カエサルに報告を始めた。
それは、対象らしき少女がサングィナトーレスと思われる一団に拐われたとの内容だった。
「ひと足遅かったか」
と話すカエサルの言葉を遮り、その偵察の騎士の胸ぐらを掴むリアンが、
「それはどこに居る、どっちに向かったぁ」
訳も分からず掴まれ、その腕に抵抗もできず咽ぶ騎士。
「お待ちくだされ赤獅子殿」
この男がリアンであると確信したかのように言い放つカエサル。
それを否定しないリアン。
あの伝説の中の化け物だとしたら、下手を打てば生存者の一人も残るまい。
その言葉は、騎士たちの態度をも改めさせるのだった。
それに報告通りならこの化け物は対象を守ろうとしているはず。
つまり敵の敵という事になる。
(返って好都合かも知れない)
そして、胸ぐらを掴まれた騎士にその場へ案内するよう指示するカエサルだった。
他の隊の者には、さきほど倒された者たちの弔いを命じた。
隊員の死を重く受け止める。
この男にとっては当然のことだった。
リアンを引き連れ、先に偵察隊と馬を駆るカエサル。
リアンはその馬に軽々と追従しながら、カエサルの毅然とした態度に好感を覚え始めるのだった。
「カエサルとか言ったな、お前ほどの男を動かすとなると上官も大した者なんだろうな」
(あいつの娘辺りか)
と、カイルの顔がよぎるリアン。
「まさか貴方ほどのお方から、そんな言葉を頂けるとは、私の主はクラウディア=レンツ様に御座います」
驚きと照れが混在したような、それが何とも爽やかな顔だった。
しかしそこに、
クラウディア、レンツ——
と、何やら考え込むリアンがいるのだった。




