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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
1章 白い綻び編

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第9-3話 〜密接と乖離〜


「どうしましたか、シリウス」

「何故、私に出兵の儀をお伝えくだされなかったのですか」

まだ、納得していないのか?とエリシアは腹の中で苛立ちを殺した。


さっきセリナとこの男が、その話をしているのをエリシアは知っていた。

なぜなら、クラウディアに助け船を出すようにとセリナを仕向けたのは、他ならぬエリシアだったからだ。


「そなたはご多忙故、兵事は軍部にと思いまして、ただそれだけでしてよ」

「なんとそうでございましたか陛下。しかしお気遣い召さるな、心も身体もこのフェルクイエスに捧げたマルセルでござりますのでな」

心にもないことを?とエリシアは口の中で呟いた。

「して、シリウスのご意見とは」

早く終わらせて帰って欲しい。

それだけだった。



かつては彼とも共に理想を語った仲だった。

しかし、いつからか道を違えてしまった者と長く接するのは、エリシアとて気が重い。


「聞くところに依りますと、あの赤獅子と魔王が共におると聞きますが、なぜそんな所に彼らだけを送ったのですか」

と、総帥の妹クロエにさえ敬意を払わないマルセルは、神エレスミア像に跪きもしなかった。


「あなたならどうしたら良いと——」

エリシアの声から柔らかさが消える。

「小隊の一つや二つ向かわせた所で彼らが相手では……」

と、今度は石屏風に目をやり、考え込むフリをするマルセル。

芝居掛かった真似を白々と続ける彼は、

「おお!?そうだ、ここは不壊の二柱に出てもらうのはどうでしょうか」

と、拳で手を叩きながら、下顎を突き出して見せるのだった。


「うーん、そうねぇ、あの二人をねぇ」

と、三文芝居で返すエリシア。

わざと狸の化かし合いを装うのだった。


「今この地に危険が及んでいる訳ではありませぬ、ならば兵たちの安全を考えるのが得策ではないかと」

と、強かなマルセル。

これまで人の身を案じた事があっただろうか?

しかし、兵の無事を引き合いに出されては嫌と言えないエリシア。


「我らの理想は犠牲の上に在らずですものね……そうね」

と、要求を飲むエリシアに、俯き不気味に笑うマルセルだった。




「大行軍では先発に追い付かないから」

と、断固たるセリナの言い分に、僅かな護衛だけで出発となった不壊の二柱。


それでも、

「そんなに慌てなくても、もう少し部下たちを連れていけばいいのに……」

と、いかにも姉が妹を心配するようなエリシア。

しかし、それもセリナの

「結構です!」

のひと言で虚しくも却下されたのだった。


セリナには胸に引っかかるモノがあったからだ。

(陛下は未だにマルセルを友として認めようとしている)

と、そんなエリシアの甘さが、セリナの危惧の元だった。

あの男がこれだけの策で引っ込む訳が無い。

少しでも多く兵をエリシアのそばに置いておきたかったのが本音である。

本当ならならクラウディアだけでも——



しかし、エリシアにも彼女なりの思惑があった。

二人をリアンとクロエに会わせたかったのだ。

クロエとセリナは叔母と姪に当たるが、同時に父の仇でもあった。

だが、戦士としてなら当然の如く、殺した殺されたは付きもの、その蟠りをどうにか解いて欲しかった。

その仲介にはクラウディアの人柄が役に立つだろう?との思惑だった。


その上、彼女の腹にはまだ別の何か企みが潜んでいた。

「カイル、あなたが私に残してくれた二つの柱は、今これからそれぞれの試練に向かいます。どうか彼女たちを……」



——切なる女王の願い


それが至聖所の風に乗せられ、遠く彼方へと運ばれていくのであった。



そして、

二つの花の旅立ちがもたらした静寂は、想像以上にエリシアを空虚へと誘うのであった。



              

                        完



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