第9-1話 〜密接と乖離〜
こんな寂れた空には、薄黄土の落ち葉がよく似合うものだった。
そんな色に埋もれた丘の上には、薄く白味がかった褐色の雑木林が、抱き売りのように置かれていた。
新緑の葉を持たぬ枯れ木の枝は、
シアンの大気の揺れに、ただひらひらとその細い指をそよがせているだけだった。
——ユトレーデル
人の住まない丘と呼ばれた、東方の最果ての地。
それでもそこには、寂しくも儚げな美が宿っていた。
その淡く掠れる褐色に溶け込むように跪く少女がいた。
まだ幼い祈りは、寂れた木々の間に溢れる光に——その白さに赦しの声を求めた。
寒さに潤む瞳は、どこまでも澄み渡った空に——その青さに慈悲の温もりを願った。
その後ろから、枯葉の絨毯を踏み鳴らし近寄る、若い女性の姿があった。
それはドレスと呼ぶにも粗末で質素な麻の服。
しかし覆われた中身の方は、絹さえ見劣りする程の透き通った白い肌に、清らかに輝く初雪の髪。
そして淡いブルーグレーの瞳には、祈りの少女の姿が——優しく包み込まれるように写っていた。
いっそ質素な服装が、彼女を清楚に芳しく薫り立ててさえいた。
——森閑に降り立つ女神のように
その女神は祈りの少女に近寄りながら、
「今日の心は?リセル」
と尋ねた。
リセルと呼ばれた少女は、
「いつも通りですわ、リヴィア」
と、振り返り微笑みを向けるのだった。
その答えと笑顔に満足したリヴィアは、リセルの肩にそっと手を置き、枯れ枝の向こうの、今やアイスグレイに落ち着いた空を眺めた。
「春はまだね。ここは遅いから——私たちはまだ待ちましょう」
小鳥の囁きのようにリセルに告げた。
黙って頷くリセルも、肩に置かれた手をそっと握り返した。
こんな鬱屈とした空さえも二人は愛せた。
のし掛かる灰の雲も、優しく包み込んでくれているように、まるで誰かにそっと見守られているような温かさを感じていた。
二人はそんな微かな幸せを共に感じとっていた。
——白銀の祈り響く、セレスタリア
カエサルたちの飛び立った直後のフェルクイエスだった。
そこに一人不服そうな髭を、これまた不服そうに撫でる中年の男がいた。
名はマルセル。
最高政務官の地位にある男だった。
カエサルたちが発つ迄、今回の計画の事を、ましてやリアンやクロエの事さえも聞かされていなかったのだ。
立場的にそれを知らないのは、恥なのだからこれも当然の『不服』と言えた。
しかし、エリシアたちは慈しみの子の件があるので、例えマルセルと言えど、いや、マルセルだからこそ敢えて言わなかったのである。
「小隊まで作るほどの任務、なぜ私に隠しておいでだったのかな?フェンガーリアよ」
横に立つ双月・クラウディアを冷たく問い質した。
「いえ、隠した訳では無くとり急ぎの支度ゆえに、報告が遅れました。申し訳ございません、シリウス」
屈託も気後れも無いが、称号で彼を呼ぶクラウディアは、彼への遠い距離を匂わせていた。




