第8-1話 〜溢れゆく白い花〜
高峰地帯とは違い、コヴォラトの地は春に満ちていた。
色とりどりに芽吹く草花。
そよ風に光る木々の香り。
さびれていた山道を、賑やかにしていた。
そんな春の訪れも今のクロエたちにとっては、ただ煩わしいだけだった。
「下りて探しましょう」
空からでは人の往来が見えないと、クロエは山道へと降り立った。
硬く踏みならされた山道の土は、パウラの痕跡を残していてはくれなかった。山道を歩いて行くと獣道があったが、新しく踏み潰された形跡は、ついに新緑には見つけられなかった。
獣道の脇に咲く赤い花。
そこにあの顔が、あの日の二人が……
その花びらの花脈の、見えもしない流れにさえ時の流れを感じ——
リアンはそこに引き込まれて行くのだった。
「ひとに戻ることができたなら、お前と一緒に……」
「あら、じゃあ戻れなかったのなら?」
エリーはわざと悪戯っぽくリアンを見上げた。
「じゃあ私はこのままずーとひとりで居なくちゃいけないのかしら?」
無垢な翠玉の輝きが眩しかった。
エリーの思いに応えられない心苦しさから、リアンは目を逸らした。
視線の先に居た赤い花は、そんなリアンを見透かしながら見つめ返した。
「私は……今のあなたなら、たとえ吸血鬼のままでも……」
と、その声は切なく音を失くしていった。
——暖かく、柔らかな陽射し
それが背中を叩いても言葉を詰まらせるリアン。
いよいよ、赤い花が痺れを切らせてきた。
お前はエリーのことを何も分かっちゃいないな——
と呆れ気味にリアンを睨んだ。
(はっ、エリーの心は……)
花に諭され、ふっ!と自嘲するリアン。
「そうだったな、お前はそんなことを?」
風に吹かれたエリーの髪が、悲しそうな顔を隠した。
風が通り過ぎるのを待ってから、
「つまらないことを言った、忘れてくれ」
そんな言葉さえ、赤い花に向かって言うリアン。
どこまでも不器用な男である。
自分の方を見ないリアンに、意地悪をしたくなったエリー、
「でも、スールレッドに戻ることだけは許しませんからね!?」
と茶目っ気を込めて言った。
「あぁ、お前を悲しませるようなことはもうしないさ」
そのエリーの顔を、輝きながらも憂うような瞳を、一生忘れることは出来ないだろう。
エリーは黙ったまま、そっとリアンに寄り添った。
たとえ二人の裾を風が揺らしても、
野の草花も、木々の葉も静かに、
優しく二人を見守っていた。
そして、あの赤い花もようやく微笑みかけるのだった。
その先には、
エリーの淡い希望と、
リアンの強い決意が、
そっと手を取り合っていた——
——ねぇ
何かが聞こえた。
ダスティブルーに染まる声がリアンを呼ぶのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
来年も宜しくお願い致します。
そして来年も、(こそは?)みなさんに良い年でありますように——
へへ、私にも✌︎('ω'✌︎ )




