第7-2話 〜ふたつの旅立ち〜
可憐だがいざとなれば総帥の”鉄壁の盾”となる女傑クラウディア。
彼女は続けて臆することもなく、禁忌の名を口にするのだった。
「その様子だと、リアンが一緒に居るという噂は本当だったのですね?」
「は、クロエ様がリア……スールレッドと旅をしていらしたとの報告が」
そして南方の山岳地帯トゥルニエミに逗留していることと、助けた少女が通い詰めていることを話した。
「分かりました、ありがとう。疲れた身体をゆっくり癒すように皆に伝えて頂戴。あなたもね」
と、優しい言葉の中にも、何処かピーンと張り詰めたモノがあった。
『リアン』と口にしてから……
それは退出して行くカエサルの後ろ姿にも、その緊張は伝わっていた。
「エレスティアール」
双月は深みのある声で、アベラルドを役職で呼んだ。
そこには先程のお転婆じみた少女の目は無く、将軍の鋭い目へと変わっていた。
そんな彼女の心を理解して、
「承知しました、フェンガーリア・レンツ閣下」
と少し頭を下げながら至聖所への扉を開けた。
至聖所には、例え双月でも司祭の許可なくは入れなかった。
エレスミア像の基壇の前には、白い外套のようなものに身を包んだ、薄金の長い髪をした女性がいた。
その白い外套は両膝を地に着いて祈りを捧げていた。
双月はその後ろに声もなく、顔を伏せて跪いた。
しばらく続いた心願が終わると、そのままの姿勢で、
「クラウディアがここに来たと言うことは、やはりリアンだったのですね?」
クラウディアが黙ったまま平伏していればそれが答えとなった。
僅かな沈黙を破り、
「クロエ様とリアンはすでに、ひと月以上彼の地に」
「そう、ではあの子はリアンと上手くやっているのね」
少し感心したような声だった。
「報告は以上?」
「は、以上で有ります陛下」
「では、楽にしてくださいクラウディア」
ゆっくりと振り返る白い外套。
至聖所の石屏風の裏手から吹き込む風。そに靡く柔らかな金の髪は、まるでハープが奏でる優美な音色のように、ゆったりと流れていた。
シャシャシャ、
と履き物を引きずる音。
わざと足音を立てながらやって来たのは司祭のアベラルドだった。
「女性のお話しはもうお済みですかの?」
子供じみた笑顔をする老人だった。
「なっ、司祭様なにをお戯れに」
「ほほほ、まだならもう一度出直さねばなりませんからな」
そこへ白い外套が挟み込む、
「何をいいますかアベラルド爺、このフェルクイエスを興してから、あなたに隠し事をしたなど一度もありませんよ」
「ふぉふぉふぉ、そうでしたなエリシアお嬢」
二人の顔を行ったり来たりするクラウディアの目が、不思議なものを見るように丸くなった。
「あの?司祭様は時々、陛下をお嬢と呼びますがそれは一体……」
「ふぉふぉふぉ、クラウディア殿の前ではまだ控えた方が良かったですかな?」
「いいえ、大丈夫よ。しかしクラウディアにはまだ話していなかったかしらね」
「はい、まだ聞いたことは……」
と、たどたどしく答えるクラウディアだった。
エリシアに仕えて長い、しかも双月の名を拝しているほどだ。
それでもエリシアのことを何一つ知らないのではないか?
そんな寂しさが込み上げ、彼女に覆い被さるのだった。




