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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
1章 白い綻び編

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第5-3話 〜黒い信仰と白い希望〜


彼が消えるのを見計らって、

「で、かの地は?」

「はは、申し辛いのですがそれが」

と、トゥルニエミに偵察として放った吸血鬼二人が殺されたことを話した。

「そうか、あれはまだ若過ぎたな」

と、その安否には興味を示さない総督。

アダムノアはその話には、

「それが面倒なことになりまして……」

と、まだ尾ひれがあることを仄めかした。

それを黙って白髭を撫で促す総督。

少し躊躇いを見せつつ言葉を進めるアダムノア。

「そ、それが二人を始末したのは……あの赤獅子と魔王のようでして」

「なんと!?」

さすがの総督も驚きを隠し得ない。

「な、なぜ、奴らが一緒に」

皆目検討が付かない表情をする総督の、目の色を窺うだけのアダムノア。


「うーん、そうかあの娘にはしばらく近づかん方が良いなぁ?」

「し、しかしそれでは」

珍しく食い下がるアダムノア。

「スールレッドを敵に回してどれほどの被害が出るのか、そんなことも分からぬお主ではあるまい!」

わざと語尾を強くゆっくり言う総督。

それを手のひらで抑えるようにして、

「いええ、それは私も心得ております」

と、アダムノアが慌てふためく。

「それに、アレの妹が一緒におるのじゃろ」

遠く西の地を見据える総督の声。

「フェルクイエスですか?」

「そんな所に大軍を送ったらどうなるか?うぅん、奴らが出て来たらまた面倒じゃのう、エリシアめ」

と決断が早いはずの総督が考え込むのだった。


(フェルクイエスは確かに強大ではあるが)

と思い浮かべるアダムノア。

しかし、総督がそこまで警戒する理由に今ひとつ合点がいかない。

総督の険しい顔を見るアダムノアの額に、脂が粒となった。

言葉一つ間違えれば、『救済』されてしまいそうな重圧がそこにあったからだ。

俯き縮こまるアダムノアは、この空気を払いたい一心で、頭の中をなんとか掻き回すのだった。

「あ!?テオドラを向かわせるのは、いかがでございましょうか?」

と、閃くままに口にした。



——時を止める沈黙


その無音空間がアダムノアに更なる恐怖を植え付けた。

(こんな寒い日にどうしてこんなに汗を……)

そう思ったら誰かに八つ当たりをしないと済まない衝動のアダムノア。

(ぬぅぐぐっ、こんな話を持ってくる諜者が悪い)

責任転嫁は大の得意だった。

そんなアダムノアの方へ、ゆっくりと総督の白髭が向いた。

その刺さる視線に、彼は我に返りさらに縮こまった。


「おお!?あれなら期待を裏切るまい」

と、白髭が心良さげに声を発する。

「して如何にございましょう?」

と、指示を仰ぐアダムノア。

それにキツい目が戻り、

「そんなことも判断つかぬのか」

と、苛立ちを言葉にした。

「はは、ではすぐにでも」

と、立ち去るアダムノアだった。

(いつまでもあそこに居たらどんな目にあうか)

と、珍しく走り出すのであった。

そして、逆恨みの念が、より一層この男を卑劣で非情な存在へと作り上げていった。




——トゥルニエミの遥か上空


そこに鳥が飛んだ。

季節を運んでくるように……

そして、

柔らかな風にせせらぎの音を乗せて、

春はやって来る。


ようやく、この山岳地帯にも美しい花が咲く。



「とても綺麗なんですよ。そしてせせらぎの魚を獲って焼いて……」

今日もクロエを”拝み”に来ていたパウラが指を折りながら得意げに言う。

「そう、楽しみね」

愛おしげにパウラを見るクロエ。


そんな優しい時間の流れでも、クロエの胸に棘のように刺さる違和感があった。

これも多くの血を奪った者に備わった勘なのだろうか?



澄んだ空の遥か遠く、一筋の黒い影がよぎった。

それは鳥なのか、それとも……


まだ見ぬ襲来者の予感か——



何れにせよクロエの胸騒ぎは、

鎮まることを知らなかった。



 

                          完


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