表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
1章 白い綻び編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/60

第5-2話 〜黒い信仰と白い希望〜


 ——アラコールの階


ノルヴィエルを北に向かった地。

天高く突き上げられた槍のように、ツンと伸びた木々。

枯れたその針葉樹林は、錆びた有刺鉄線のように、人を拒絶した。

その樹海に囲まれた大きな岩壁が、古代の人々の祈りを階として、その顔を残していた。


その遠い昔に人からも、神からも、忘れられた階の神殿へと、白馬に跨がる男が入って行くのだった。



階に根を張るのは、サングィナトーレスという集団だった。

今や一国とも呼べようか。


それはかつて、

『スールレッド・リアン=ヴァルド』

を討伐すべく発足し、吸血鬼撲滅を理念に支持を集めた聖騎士集団だった。

しかし、いつしかその地位や名声は、ただの権利と化し、暴利の象徴へと変貌を遂げていった。


神オルヴェウスを崇めるようになってからは……



「救済は滞りなく進みましたか?

オルム・シュレックよ」

この男の呼び方はいつも鼻につく。

「はっ大司教アダムノア=モルグダース殿、昨夜首尾通りに」

と、しかたなく膝をついて答えるのは、ヴァルター=シュレック。

あの『救済』の承認者、黒いローブの影はこの男だった。


そのアダムノアの後ろ、祭壇の奥からもう一つ影が現れた。

白の正装、首から下げた銀の十字には、赤い宝石が散りばめられていた。

祭壇の前に立つと振り返り、オルヴェウスの像に祈りを捧げた。

「総督陛下」

と、アダムノアが跪き、ヴァルターもそれに従った。


総督と呼ばれた男が、

「救済はコール教皇が執り行ったのかな?モルグダースよ」

と、小隊長であるセントリオルム程度には口を利かないというのか、アダムノアに直接問いかけた。

首だけ後ろへ向け、ヴァルターを見るようにするアダムノアが、

「どうなのじゃ?オルムよ」

少し慌て気味に言う。

(もう少し困らせてやろう)

と、黙るヴァルター。

そこに、

「モルグダースっ」

と、焦れた総督が怒鳴りつけた。

みじろぎしつつアダムノアが、

「は、早く答えよヴァルターよ」

と、格式ぶる余裕をなくし、名前で呼んできた。

(いつもの威張り腐った威厳はどうした)

と思ったが、自分にも矛が向くのを恐れ、

「いえ、司祭殿の手によって」

と、短く答えた。


「ふぁぁあ!?な、なんと〜」

悲鳴を上げるアダムノア。

「ただの救済ではないのだぞっ」

総督の目に鋭く射抜かれたアダムノアは、ただ震えるしかできない。

「こんなことなら、なぜお前が出向かなかった」

と力み過ぎたのか、総督がよろめく。

「い、いいえ、救済されるのはパパスであると明言してありましたので……」

可能な限りを尽くし、身体を小さく畳むアダムノア。


『救済』されたのは、聖セレスミアの庵の創設者パパス侯爵だった。

彼は、セレスミアを厚く信仰する、反サングィナトーレス派の第一人者であった。

そんな人物の『救済』だ、特別な意味を持つのは当然と言えた。


「まさか教皇は腹を違えたわけではあるまいな」

アダムノアの自由を奪い去る総督の疑心の目。

アダムノアと教皇は従兄弟関係にあり、そして教皇はなによりもパパス侯爵とともに、旧サングィナトーレスを発足させた張本人だったのである。


移ろう時に人々は変わって行く、

それによって信じる神もまた然り。

教皇とパパス侯爵は、サングィナトーレスを乗っ取った者により、懐柔された者と抗った者へと二分されていったのだった。



「まぁよい、奴もそうそう背を向けられんて、ふぉふぉふぉ」

と、総督の薄気味悪い笑い。

「それより、偵察からはどうじゃ?」

「はは、ノルヴィエル周辺は特に異変はなさそうでして、セレスタリアの奴等めも今は大人しく鳴りを潜めておるそうです」

と、話が変わり安堵するアダムノアが額を拭う。

「そうか」

答えつつまたジロリとアダムノアを一瞥する総督。

そして、わざとらしい咳払いをし、

「もう下がって良いぞ、旅の疲れでも癒して来るがいい」

とヴァルターを追い出すようなアダムノア。


「かしこまりました」

そう短くいい立ち去るヴァルター。

秘密主義の国とはいえ、自分にさえ知らせぬこととは……

疑念に浸りつつ、重く大きな扉を閉じていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ