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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
1章 白い綻び編

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第5-1話  〜黒い信仰と白い希望〜


  ——鐘が三度鳴った



それは寂寥の声となり、

乾いた冷たい風を山間へと送った——


無数の燭台から生えた炎が、

深い海の底の紅藻のように、

ゆらゆらと闇を揺すり、

祭壇や石像に形を与えた。


焼けた鉄の味、

混じる血の匂い、

鼻を刺し、喉を焦がす。


その中で、集える黒い影たちの声は奪われていった。



——黒い静寂


それが創り上げた悍ましい夜が、そこにあった。



祭壇の上には白い布が、雪の山脈のように幾重にも折り重なっていた。

その前に、白地に黒い蔦のような模様の入ったローブを、深く被る影があった。

左の手には教典を携え、何やら祈りの言葉なのか、聞き取れないような声を発していた。


そして右の手に持った斧は、鎌首をもたげる蛇のように静かに振り上げられた。

細い蝋燭の灯にさえ美しく銀色に光を放ち、見る者の時を止めていった。


振り下ろされるその光に咽びの声が上がる。

再びその斧が引き上げられた時、白い山脈に赤い溶岩が流れ出した。

時を与えられた黒い影たちに、混ざり合う祈りの声が湧き上がった。


「Lux ex umbra nata, fiat umbra Domini」


その声は、石の壁を揺さぶるように響き渡り、唱える者の意識さえも昇華させていった。

いつしか轟音と化した祈りの声、その中に橙にゆらめくローブの影。手にした斧から、フードに覆われた金の仮面へと、血が滴り落ちる。

幾度となくその斧は振り下され、

その度、ふり絞る声に噴き上がる溶岩が山脈を大きく震わせた。



更に高く差し上げられ、天窓から注ぐ月光に蒼鉛に光る銀の斧。


その青に祈りの声は止み、

生み出された音のない世界、

そこに、視線は集まった。



——闇に揺れる金の仮面


「gaudium cruoris」

と、重いがよく通る声が発せられ、

黒い影たちが胸の十字を天に差し上げた。


そして、

その滲んだ蒼鉛の元から離れた斧は、

輝きを無くしそこに落ちて行った。

死の淵に山脈は震え、最後の雷鳴を轟かせるのだった。


その断末魔の叫びを合図に、

 「Ad sanguinem, ad tenebras, ad aeternitatem……」

唸るような男たちの詠唱が湧き、それに続く女たちの高い歌声が響き渡り、石の柱を大きく揺らしていった。


消えかけた蝋燭の灯が、

最後の灯りを金の仮面に集め、

ひしめく歌声の中に浮かび出された。


仮面の下の目は、闇に光る獣の目のように、黒く輝く神像を見据えるのだった。



 ——血が石に滴り落ちる音


詠唱は今や歓喜の声となり、

床の円陣は赤く輝き放った。



 『オルディネム・クルキアトゥム』

正義を名乗り、火と鉄で人も魔も裁く狂信の徒。

その崇める『裁きの神オルヴェウス』は、その業の深さ故に、姉である『赦しの神エレスミア』にさえ見放されたという。


この教団は『救済』と称し、拷問と処刑を繰り返し、その血を啜ることが神への奉仕と信じ続けた。



教会の端で『救済』の一部始終を見届けた黒いローブの影。

その影は、静かに闇へと消え去っていった。

血塗られた銀の十字を、祭壇の炎に揺らめかしながら……





——トゥルニエミに朝が来た


薄暗っかった山の影に、黒い谷底のように見えた小川に、ようやく輝きが、潤いが、注がれていった。



美しい山岳が気に入ったのか?

リアンたちは、あの廃小屋に居座り続けていた。

今の二人に食事の心配はなかった。

あのパウラが運んで来てくれるのだった。


「いいのか?いつもいつも」

柄に似合わず済まなそうなリアン。

「生命に比べたら安いものよ」

と、笑顔で答えるパウラだった。


最近では随分とパウラも慣れてきたもので、時折りクロエに向かって、

「ああ、エレスミア様よ」

と冗談を言う始末だった。

迷惑そうに戸惑うクロエを、

(こいつも随分と変わったな)

と、嘲笑うリアンは、

「まるでパウラはクロエの妹みたいだな?」

と、冗談を言うのだった。

止まらないパウラは、

「だから違いますってぇ、クロエさんはエレスミア様なんですよぉ」

と、花も綻ぶようなその笑顔で、その場にまた柔らかい空気を作った。

「魔王が、か?」

とつい口走ったリアン。

遂に黙っていられなくなったクロエが、

「じゃあ、リアンは差し当たりオルヴェウスってとこね?」

と珍しく得意げに言うと、三人は大きな笑い声を上げた。

それは割れた天井を突き抜け、青い空へと溶けていくのだった。



そんな楽しいひと時の裏に、

オルヴェウスの影が迫っていることを、三人はまだ知らない。


そしてリアンの中にも脈打つ、

その血のことさえも……


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