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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
1章 白い綻び編

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第4-3話 〜溶かせない想い、拭えない記憶〜



——百四十年ほど前だった



今よりも、もっと人が人の血の匂いを好み、争いを起こしていた。


そんな時代だった。


甲冑の擦れる音、

血生臭い獣のような息遣い、

馬に蹴り上げられた土の味、

それらが、

11才のリアンの小さな身体を、心を、焦がしていった。


父を狂喜の声とともに殺す兵士。

その血が、そこに逃げ惑うリアンの胸に飛び散った。



——これは戦争ではない



ただの殺戮と略奪だった——



庇うようにリアンを抱きかかえる、か弱く震える母の手。

その手を容易く解く殺戮者の丸太のような腕。

絶望に声すら奪われ、ただただその腕に掴まれ引きずられていくリアン。

涙ながらに後を縋る母親、それを払い除ける兵士の大きな靴。

母に手を伸ばすリアンは虚しく、荷車へと投げ入れられるのだった。


業火の中でも薄暗いその中で、何かの木箱に頭をぶつけるリアン。

痛む顳顬の辺りを触ったリアンの手が、血に濡れていた。

それを見て、

「あ、うっうう」

堪えていた涙が溢れ出すのだった。


(頭の傷なんて痛くない、こんな血なんて何ともない)

服に染みた父の血を握り締めた。


父さん、まだこんなにも温かいじゃないか——


大粒の涙が、その手を揺らした。


まだこんなにも父さんの匂いがするじゃないか——


まだそこに居るようで、


死んだなんて信じたくなくて——



それでも無慈悲な馬車はそこに動き出した。

村を覆い尽くす炎の中には母親の姿が、

「リアンを返して!リアンっ!」

燃え盛る業火の熱など気にも留めず、一心に叫び追い縋っていた。


その母の姿を、溢れ出た涙が滲み、そして消していった。

母の最後の記憶。

それがリアンの頭に、心にと強く刻み込まれていくのだった。



——母さんが呼んでいる



      か…あさん……




「リアン、ねぇリアンてばっ!」

と、クロエの声がやっと聞こえ、意識を取り戻したリアン。

それを心配そうに覗き込むクロエに向い、

「なんだ!そんな顔して」

とふてぶてしく言い放つリアン。

そこにあったのが母ではなく、クロエの顔だったのが心底気に入らなかったようだ。


それにムッ!とするクロエだったが気を取り直した。

(なんせ、今夜は人には寒すぎる)

と凍えそうなパウラたちに、

「家はどこなんだい?送っていくわ」

と、気遣いをみせるのだった。


しかしパウラは、

(それでも吸血鬼に送ってもらうのは?)

と、助けては貰ったが得体の知れない吸血鬼に変わりはないクロエたち。

それを察したクロエが、

「なぁにを勘繰ってんだい?やるなら今ここでやっちまうよ、あんたらなんて簡単さ」

と、信用させたいのか、脅しているのか?

「あ!?いえ、それではお願いできますか?」

と結局、送ってもらう”ハメ”になったパウラだった。




——吸血鬼に救われる



という、まだ信じられない出来事。


そこに遅れてやって来た星が、冷たい風の中をひっそりと彩った。


まるでふわふわとした夢の中にいるように、ぼんやりと滲んだ光りに包まれた。そんな錯覚に陥るパウラだった。


そして、それが現実の世界の出来事だったのか?

そう気づくこともなく、眠りの世界でその続きを見ているのだろうか……



二人を送り届けたクロエは仮初の宿へと戻る途中、リアンに話しかけた。

「最初あんたに言われて、吸血を止めるなんて無理だと思っていたけどさ」

と言いながら星を眺めるクロエ。

人助けをしたことに、心が晴れ晴れとしたような表情だった。

「ああ、そんなことを言ったっけな」

と、誤魔化すようなリアンがいた。



それは、共に旅をすると決めた日だった。

「なぁ、人を喰うのを辞められるか?」

と、聞くリアンに、

「そっちこそ!」

と、口を尖らせるクロエ。

人の血肉は吸血鬼にとって、何物にも代え難い力の源であった。

「俺か?俺はもう何年も人と同じ物しか食ってないさ」

「あなたがそんなことできるの?」

噂は本当だったの……人も鬼さえも食い漁ったこの男に?

と、疑うのは当然だった。


「ある人との約束……いや願いなんだ」

「ある人とは?」

と、誰のことか察しはついているが、そう返すクロエ。

「大切な人さ、もういない」

「ふーん、あなたにもそんな人がね。……いいわ私も付き合うわそれに」


少し躊躇ったあとリアンは、

「は…な…をくれたんだ」

「花?」

「ああ花さ、可憐な花だ」


 

 ——だから俺は


そして、

『その可憐な赤く小さい花と翠玉の瞳、その人の想いを守りたいのさ』

と続けたかったが胸に押し込めた。

恥じらいでも、ましてやもったいぶった訳でもない。


言葉にすると、それがペラペラになって消えていってしまうような気がしたからだった。



「まあ、もう慣れちまったけどな」

とリアンがエリーとのその約束を、その願いを、今でも守っている。

それが何とも嬉しく思えるクロエだった。




——トゥルニエミ


暗く寒い雪解けの山岳地帯、


こんな高地にも小さく可憐な赤い花が、



ひっそりと咲いていた——




そして、それにまだ気づかないリアンがそこにいた。



     

                         完



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