第35-1話〜再会〜
おチビクロエの村を離れ、ヴァルミナの北方へと進むクロエ。
ポツリポツリと置かれた石岩が晴れ渡る空の下、野原にいいアクセントとなっていた。
「気持ちいい天気だね、あの岩でひと休みと洒落込もうかね」
と、クロエもその風景の一部へとなっていった。
さぁて、と木の実を広げ所望しようとしたところへ、
「痛っ!」
と、声に出すクロエ。
リスのピュチェリがクロエの耳の後ろを引っ掻いたのだ。
「何をするだい?」
とは聞かないクロエ、ピュチェリがそうするのには訳があると知っていた。
しかし、今回は理由が分からなかった。
(ん?何だい、何があるってんだい、ピュチェリ?)
と、辺りを見回しながら様子を探る。
敵意や殺気を向けられれば、クロエの方が先に気づくはずである。
と、なるとますます何だか分からないクロエ。
焦れるピュチェリが、クロエの肩から飛び降り、向こう側に鎮座する岩の上に登った。
その裏側を見下ろすピュチェリ。
訝しがりながらもそれを追うクロエ。
ピュチェリからは、緊張は感じられない。
「キキ」
と、小さく鳴くピュチェリ。
「どうしたってんだい?」
と、覗き込むクロエ。
(……!?)
衝撃が思考を奪う。
「ん、何だこれはっ!?」
と、クロエさえも驚ろかすものが、そこにはあった。
腹を裂かれ内臓を食い破られた鹿の亡骸だが、すでに幾日か経っていると見える乾き切っていた。
そして、その鹿の腹の傍に頭を置いて倒れている。
「これは男かい?それとも人じゃ無いのかい?」
と、クロエにそう言わしめる異形さがあった。
何れにせよ、クロエはこんな光景を見たことがない。
確かに動物の血を喰らう吸血鬼もいない事は無かった。
しかし、肉を食うならまだしも内臓をとは、そして何よりも、
その風貌が問題だった。
「こんなにドス黒く青ざめているなんて、やっぱり死んでいるんだよね?それにこの傷痕は?」
と、その一つの死体に、不思議な点が山ほどあった。
好奇心が抑えられなくなって来たクロエ。
ピュチェリの様子も気付かず、それを物色し出したのだった。
「この切り裂かれた痕は、剣じゃないね。斧か鉈なのか……」
と、衣服が覆っていない部分だけでも、二十を超える傷跡。
不思議とその深かったであろう傷の全てに、縫い合わせた様な跡が無い。
つまり、自然治癒によるモノだろうと言えた。
「こんな傷が治るなんて、やはり吸血鬼なのかいこいつは?」
と、一通り見終えた所で、ピュチェリに話し掛ける様なクロエ。
「ん?何だいピュチェリ、まだ何かあるのかい?」
と、ピュチェリの視線の先に目をやるクロエ。
「誰だい!?」
と、口を突いて出たクロエのセリフ。
そこに誰か居た事に、自分が気づかなかったのを不思議に思うクロエ。
しかし、それも仕方がない。
その木の陰で寝ていたのだから、殺気どころか、気も発していなかったのである。
「ひぃやぁ」
と、クロエの声に怯えて顔を覗かす木陰の男。
「何だいアンタ、そんな所で?」
と、呆れ顔のまま睨むクロエだった。




