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落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
3章 幕開け編

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第34-1話〜すくわれる二柱〜


「マルセルをここへ!」

とは、今のセリナは言わない。

新生セリナは自らの足で、マルセルを探し求めた。

今の地位だけではない、これまでの軌跡もそこに加味されるべきだ?と言う事を学んだからだった。


マルセルは、その野心に飲まれてしまった。

それは、彼が弱いからだ。

と、今のセリナでもそう考えた。

しかし、それを無視して来た昨日までの自分とは違う。

ただ、それだけだった。

が、それこそが大きな成長なのだと?今のセリナには気づく余裕は、まだなかった。


マルセルの居室、議会室、応接……とあちこち、幾つもの部屋をその足で回った。

(いつもこんな事を部下にやらせていたのか?)

もう少し労わろう、そう改めて思ったセリナであった。

そして以前父が、

「俺があいつを狂わせたんだ。せめて、何とかあいつを……」

と、言っていたのを思い出した。

そこに、父の優しさだけを見ていたセリナ。

しかし、今は違う。

マルセルにも理由があったのだろう、そう思える彼女がそこに居た。


すると、

「閣下、シリウス殿の件はご存知ですか?」

と、カエサルがやや蒼白な顔をしていた。

「彼なら、その件で今探しているのだが?」

と、セリナが答える。

マルセルを“ヤツ”と呼ぶこともしない。

「いえ、閣下の妹君の件では無く」

と、切り出すカエサル。

何でも、マルセルが例の伯爵の馬車で、ここを出て行ったと言うのだ。

そして、門番には外出許諾証を見せたのだと言う。

「本当か!それはっ」

さすがに激昂するセリナ。

「はい、それには陛下の押印が確かに、と」

聞いたままをカエサルが。


あり得なかった。

今し方マルセルへの尋問を託されたのは、他ならぬこのセリナだったからである。

そのマルセルに許諾証などとは……

(なんて事を、これでは!?)

収束へ向けようとした努力が、皆の想いが、怒りより悲しみを感じるセリナだった。

(今まで彼に重圧を与えて来たせいなのか)

と、そう自分を責める彼女であった。


責め続けられれば、やがて逃げていく、人も獣も同じである。

そこに差別はない。

エリシアの元へ急ぐふたり。

「うーん。困ったな?これではもう余地はないのう」

例の如く、喉元を掻くアベラルド。

「このまま、野放しには出来ないけれど、まさか伯爵の馬車を襲う様な真似は……」

打つ手なしの一同。

どこか沈んだ様なセリナ。口数が少ない。

「セリナ?セリナ!?」

呼びかけるエリシア。

セリナは、目を開けたまま眠っているかのようだった。

今度は手を振ってみる、

(ダメかな?)

と、諦め掛けたエリシア。

は!?と、やっと気づいたセリナに、

「やーと、お目覚めかしら?」

と、拗ねた顔を拵えてみるエリシア。

「あ、あぁ、申し訳ございません」

素で慌てるセリナ、中身には乙女が隠れていた。

「何か心配事?気掛りがあるなら……」

遠慮無しに言えと伝えるエリシアは、表情は努めて穏やかに仕立てた。

少し躊躇うセリナはそれではと、

「こんな時……こんな状況に陥ったら父なら、いえ、カイル閣下ならどうなさったのか?と思いまして」

よほど思い込んでいるのだろう、言葉がすらすら出てこなかった。

「そう……で、何でそんな事を考えたのかしら?」

と、少し冷たい口調のエリシア。

「え!?あ、いえ」

何故問い詰められているのか理解出来ないセリナ。

しかしただ黙ってても話は進まない。

「カイル閣下と同じ様にしなければ?と……」

それは、切羽詰まった、期待の重責に押しつぶされた乙女の言葉だった。

それでも心を決めたエリシアはまだ冷たく、

「そんなのどうだっていいじゃない」

と、ヤル気の無さを全面に押し出す。

ただ、見守るアベラルド。

「どうでも、ですか?」

と、内心は面白く無いセリナ。

「そうよ、だってカイルはもう……」

急に目を鋭くするエリシアが続けた、

「あなたは何なのかしら」

と、少し声を荒げる様に言った。

「何なの……ですか?」

戸惑うセリナ。主旨が掴めない。

しかし、何か言わなければ?

と、

「私はカイル閣下の娘なので、このアークセ」

バンっ!

と、エリシアが机を叩き、それを遮った。

初めて見るエリシアのそんな姿に、唖然とするセリナ。

そこへ、

「あなたは、跡取りだとでも言いたいの」

と、さらに語気を強める。

(……違うのか?)

と、内心そう思うセリナ。

「後継者ではあるけど、跡取りでは決してないわっ、それを履き違えない様に、いいわね」

エリシアのその言葉に、目を丸くし、

(何が違うの?)

と、まだ困惑が続くセリナだった。


「ささ、今日はその位にされてはどうですかな?」

と、それを待っていたアベラルドが、やっと仲裁に入った。

それではと、部屋から退出する三人。

その回廊で、

「司祭様、私は何か間違った事をいったのでしょうか?」

と、まだ俯くセリナ。

黙ったまま、数歩を歩いたアベラルドが、

「カエサル殿、今日はもう遅い」

と、促す様に。

それに気づいたカエサルは、礼を述べ立ち去った。

「ちと池でも眺めますかの?」

と、アベラルド。

ここの回廊は声が響く、と池の辺に落ち着く二人。

青く大きな今夜の月——

「陛下の言葉……ですかな、腑に落ちないのは」

話を始めるアベラルド。

「いえ、腑に落ちないとかでは……」

セリナに言い争う気はない、ただ理解が。

「陛下は悲しかったんじゃよ。セリナ殿に想いを理解してもらえんのが」

と池の中に、光る岩を見つめるアベラルド。

黙ってその顔を見続けるセリナ。

飽くまでその岩を見据えるアベラルド、

「セリナよ、カイルの子であっても、お主はその代わりではないのじゃよ」

司祭でもない、セレスティアールでもないアベラルド=ヴェーンがそこに居た。


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