表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちた紅の花びら 〜A petal named Liselle〜  作者: マメ
1章 白い綻び編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/59

第4-1話 〜溶かせない想い、拭えない記憶〜


雪解けの水は新たな道を作る。


初めは切れそうな糸のようだったが、それは次第に太く深くなり、やがて川となる。


山間に冷たく綺麗なせせらぎがあった。

山頂に残る雪を美しく浮かべながら、さらさらと流れていた。



——トゥルニエミ


ノルヴィエルから南に向かった山岳地帯。

岩と草原が続き、晴れた空によく似合う山脈が美しかった。


「こんなにも山ばかりじゃあ人も住んでないんじゃないの?」

と、共に旅をするようになったクロエは少し慣れて来たのか、愚痴っぽく言った。

それに答えず景色を眺めるようにソッポを向くリアン。

(何だい!?気を遣って話かけているのにさ)

と、腹の中で毒づくクロエは、早くも仲違いの兆しを見せた。

『私はまだあんたの首を諦めた訳じゃないんだからね』

と何度それを口にしたくなったことだろうか?


そして、そうこうしているうちに麓に近づいていった。


二人とも人が吸血鬼になった口だから昼でも行動ができる。

しかし、

「こうも人がいなければ、喰らう方の吸血鬼だっていないかも知れないね?」

クロエが愚痴っぽいのは確かだが、言っていることは的を得ているとも言えた。

昼間でこれだ、夜になったらなおのことではないか?


「確か、ここの麓に集落があったはずだが」

先の方を指差すリアン。

「そう、それはいつの話かしら?」

と、イライラが募ってきたクロエの聞き方には、棘が増してくるのだった。

「九十年くらい前かな?ここいらに来たのは……」

考える素ぶりなく適当に答えるリアン。

「あーぁ、そんな昔じゃ、もういないんじゃない?暖かい所にとかさ」

と、手をひらひらさせながら山頂でも見る素ぶりのクロエ。

それでも呑気に、

「かもな?それにしてもお前、ここの見晴らしは満更嫌いでもなさそうだな?」

と、クロエのキョロキョロする行動に、可笑しささえ感じるリアンであった。

「景色はいいからねぇ。私も少しは人らしさが残ってたのかしら」

と、この青空を突き上げる雪山の頂、そのコントラストが案外気に入ったようなクロエだった。


「魔に身を落とした者が、今さら何を言っているんだ?」

と、相変わらず素っ気ないリアンは背を向け先を歩いた。

「あんたにだけは言われたかないわよ私だって」

たとえ見られていなくても、口を尖らせるクロエだった。


お互い冗談のつもりだろうが、心に刺さるものはあった。

余りにも多くの屍を作ってしまった。

こんな清々しい風の中でも、流してきた血の匂いが、その身体から滲み出ていた。



程なくして麓までやって来た二人。

やはり廃村の一歩手前という感じだったが、何軒かの家はまだ機能しているようだった。

そして、小さな廃小屋を見つけ、二人はそこで休むことにした。

中に入ると、その外見の良さに騙されたことに気づき顔を見合わせる。

天井と壁の残骸が山と積まれ、中は散々なあり様だった。

「ま、いい方だろ?」

と、言ったのは意外にもクロエの方だった。

彼女のサバサバとした一面が窺えた。


屋根の隙間から、オレンジに染まった光が差し、そろそろ腹の減ってくる時刻と告げていた。

来る途中リアンは、木の実を取りながら歩いて来た。

山歩きの習慣がまさに今、実を結んだ。


「食え!」

と唐突に、土の付いた茶色い物を投げるリアン。

彼にとっては、優しさのつもりだったのだろうが『食え』と言われても、それをどう食べていいのか困惑するクロエ。

探るように見るリアンは、

「お前、木の実を食べたことはないのか?」

と、呆れる顔をするのだった。

「え!?私だってこんなの見たことはあるわよ。それくらい」

そういう顔をされるのが嫌いなクロエは、負けず嫌いを発揮させるのだった。

その可笑しさに耐えかねたリアンが、

「まさかとは思うがお前ハハハ、貴族のお嬢様だったのか?」

と、その笑い方がまたまたクロエの腹の虫を小突くのだった。

「はっ!何が言いたいのかしら?」

とリアンを睨みつけるクロエ。

「いや、お前……見た目より品が良さそうだからな?」

と、お世辞のつもりが、女心を理解しない無骨者が地雷を踏んだ。

「はあ?見た目て!?よくも人のことが言えたわね。アンタは自分の姿を見たことが有るのかしら?」

と、クロエの荒ぶりはしばらく続くこととなった。


しかし、こんなやり取りが、二人の溝を埋めていくのもまた事実だった。



——見張りを怠る月


それは、厚い雲の中に潜って行ってしまった。

そこに、吸血鬼を吸血鬼たらしめんとする闇夜が到来した。

そして、焚き火が恋しくなる寒さが、ついでにやって来たのである。

「火でも起こそうか?」

答えようと口を開けた時、

「ぎゃあ〜!!」

男か女かも分からない声が悲鳴の形となり、寒く静謐な夜を壊していった。


「若いな?」

狩りに慣れた吸血鬼は、断末魔の叫びを聞かずして仕留める。

瞬時にそう捉え立ち上がるリアンだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ