速攻断罪ルート早過ぎだけど取りあえず廃嫡されました
「アスラン、お前はアルフレッドとリアンナ嬢が命を救ってくれたことを忘れたのか?」
それがアスラン第一王子がアルフレッド第二王子のことの顛末を報告して資質が無いといった国王チャールズの回答だった。
王族の食卓での話である。
王妃はアスラン第一王子を一瞥すると笑みを浮かべた。
「国王さま、アスラン王子はお母君に似てお身体が元々弱く王族としての教育を受けておられずアルフレッドだけが跡取りとして教育をうけてきましたもの。それが今になってお元気になられたのです。これまで思うところもあったのでしょう」
アルフレッドは顔を顰めた。
「母上」
母親の王妃マリーベルが言っているのは今まで身体が弱く世継ぎとして見捨てられていたアスランが王候補になろうと企んでいるということを言外に告げたのである。
砕けた言い方をすると後継者争いを企んでいるということである。
だが、母親は違えど兄としてのアスランはアルフレッドにとっては大切な存在であった。王としての教育を無理やり受けさせられて泣いていた時に何時も慰めてくれていたのだ。
優しい。思いやりのある兄である。
その兄が突然あんなことを言いだしたのにはきっと理由がある。
「リアンナを貶め俺に迫ってきたマルガリータという女が兄上を誑かしたんだ」
アルフレッドは拳を握りしめると顔を顰めた。
アスランは少し考えると王妃を一瞥し王を見ると食器を置いて唇を開いた。
「マリーベル王妃は私の母の後に王妃になりました。私は第一王子です。王位継承権から言ってもアルフレッドより上ではないのですか? 確かに先の言葉のように弟のアルフレッドを蹴落として王位をはく奪させようとしたのは浅はかでしたが王は私を早く跡取りとして認めていただきたい」
アルフレッドは思わず食事の手を止めるとアスランを見た。
「兄上、兄上は騙されているのです。あのマルガリータと言う女が兄上に王になるように唆しているのでしょう。リアンナにあらぬ噂を立てて嫌がらせをしていると聞きますし」
チャールズの懸念の一つがこの王位争いであった。アスランは元々病弱で性格も穏やかだったのでまさかこんな風に王位をよこせと言ってくるとは思ってはいなかったのだ。
ただ王妃であるマリーベルは『健康になれば継承権争いになるかもしれません』と言っていた。
それに対してはアルフレッドの母親だからだろうと考えていた。
「だが、マリーベルの方が正しかったということか」
チャールズは唯こうなった場合に心配していることがあった。
アスランの身のことである。
マリーベルは賢明な王妃だがロートリンゲン家の出である。背後には国の派閥牽制がある。
アスランの母のフィオレンティーナはハプスブルク家の出であった。だが、フィオレンティーナの死に続きアスランの病弱と勢力は衰えていた。
だからこそ、アスランの命が危ないということである。邪魔な芽を断ち切ろうとする可能性があるということだ。
アスランは父であるチャールズに期待をしたのである。あからさまに王位簒奪を狙っていると言えば現王妃の手前もあって廃嫡をしてくるのではないかと思ったのである。
だからはっきりと告げたのだ。
「俺が殺されるのが先か廃嫡が先かなんだけど……父には賢王でいてほしいんだけど」
廃嫡されればマルガリータももう嫌がらせをしなくて済む。というか、恐らく噂を流したのは他の令嬢だと思っている。噂を広めるにもスピーディ過ぎるのだ。
「彼女、子爵令嬢の割りに友達がいなかったからね」
アスランは息を吐き出すと最後の手を使った。
「俺はマルガリータ・ウィルソン子爵令嬢に騙された訳じゃない。俺が指示したんだ。リアンナ嬢は人々の受けもいいし、お前も人に恵まれている。だが俺は一人だ。だからリアンナ嬢を陥れたらお前も失脚すると思ったんだ」
アルフレッドは蒼褪めると首を振った。
「まさか! 違う! 兄上がそんなことを思うなんて」
アスランはふっと笑うと肩を竦めた。
「お前が甘いだけだ」
チャールズは二人を交互に見てマリーベルに視線を向けると直ぐに立ち上がった。
「アスラン、お前の性根がそんなに腐っているとは思わなかった。お前の命を助けてくれたリアンナ嬢にまでそんな真似をするとは……お前のように腐った人間が王になっては国が傾く。お前に王位は渡せん! お前は廃嫡する」
アスランは立ち上がると全員を睨んだ。
そして舌打ちするとその場から駆け出した。
アルフレッドは凍り付いたままそれを見送り、唇を噛み締めた。
優しかった兄が自分をそれほど疎ましく思っていたとは。
まして、婚約者で命の恩人だったリアンナまで陥れようとしていたとは。
「兄上がそれほど王に執着していたとは……」
マリーベルはアルフレッドに向くと優しく微笑んだ。
「アルフレッド、しっかりしなさい。王位と言うのは人をおかしくさせるものなのです」
そして国王に笑みを見せた。
「国王さまは流石賢明なお方です。よく決断していただきました」
アスラン第一王子の廃嫡が決定した。
その連絡は翌日の朝に王都を駆け巡ったのである。




