やっぱり! 空振り意地悪 残念ヒロインらしく
私とアスラン第一王子は共に悪役令嬢が二周目の残念立場の共闘関係を築いた。
私は魔法学校の1年生ベータクラスで15歳。
得意魔法は水と土。一応他の属性魔法も使えるんだけど得意なのはその二つ。
隣のクラスのアルファクラスには乙女ゲームで悪役令嬢の取り巻きだった令嬢たちと悪役令嬢だった彼女が所属している。
アルファクラスは公爵や侯爵、伯爵までの所謂高級貴族たちの子息たちがいる特別クラス。
それ以下の子爵や男爵、準男爵などが私と同じベータクラスに所属している。
最大の問題は今回の主役である悪役令嬢のリアンナ・ウェルズ公爵令嬢との接点がないという点なのよね。
私は講義室の教壇で魔法の属性講義をしている教授を見て小さくため息を零した。
「確か小説では残念ヒロインがしつこく転生悪役令嬢を追いかけて行って業と転んで『リアンナさまに押されて』って言うのが常套手段なのよね」
私は講義が終わってスクッと立ち上がると講義室を出て隣の校舎にあるアルファクラスの講義室へとソロリソロリと身を隠しながら向かった。
階級が違うために習う場所も違う。
「こんな設定があったなんて……もっと読み込んでおくべきだったわよね」
私はフゥと息を吐き出して廊下を渡ってちょうど講義室から出てきた4人の令嬢たちを目に入れた。
「リアンナ・ウェルズ公爵令嬢! いたわ」
私は「良し!」と足を踏み出すと走って彼女の元へと突進しかけてバッと前に出てきた二人の令嬢に目を向けた。
金髪が綺麗な美しい容貌のエリザベス・サマセット侯爵令嬢と銀髪を結い上げた気品あふれるシェリル・ウィンチェスター侯爵令嬢の二人が私を睨んだ。
「子爵令嬢はお勉強する場所が違うのではなくて?」
エリザベス・サマセット侯爵令嬢が冷えた目でそう告げた。
シェリル・ウィンチェスター侯爵令嬢もまた凍えそうな微笑で私を見つめた。
「ベータクラスでリアンナさまに怪我をさせられたとか、嫌がらせを受けたとか言っているのはもしかして貴方かしら?」
ん? あれ? 私まだ仕掛けてないんですけど……私はそう考えたものの元々そう言う予定だったので心でガッツポーズをした。
そして涙を浮かべると彼女たちの後ろで見ている攻略対象の王子や騎士たちに業と聞こえるように泣き真似をした。
「言い掛かりですぅ……えぐえぐ……私、本当のことしか言ってません」
そう言ってアルフレッド第二王子の腕に飛びついた。
瞬間にスッと避けられてこけた。
「部を弁えろ。子爵令嬢が我が兄を救い未来を見通す聖女である公爵令嬢を陥れようとするなど次すればどのようなことになるか覚悟しろ」
瞬間にリアンナ・ウェルズ公爵令嬢が彼の腕を掴んだ。
「アルフレッド王子、私は大丈夫です。その……ほ、本当にマルガリータさんが言ったわけじゃないかも知れませんから」
ダメダメ! それじゃあ、せっかく誰かがしてくれたお膳立てが無駄になっちゃうわ。
人に嫌がらせをするのって大変なのよ。
御免なさい気分になるし、心は傷つくし……兄さんはずっとそんなことをしてはダメだって言っていたし。
だからこのチャンスを逃すことはできないの!
私は立ち上がると思いっきりリアンナ・ウェルズ公爵令嬢を睨んだ。
「なによ! 貴方、転生者でしょ!! そうよ! 王子や騎士団長は私にぞっこんになるはずだったのよ!」
そう胸を張って告げた。
子役から鍛え上げた実力派アイドルと言われた亜久里るりの実力をお見せするわ!
「なのに! なのに! 悪役令嬢の貴方がどうして!!」
アルフレッド第二王子が顔を歪めて私に手を上げかけた。
一発貰い受けます! 女優をしていたら叩かれることもあったから大丈夫。 痛くない叩かれ方は分かっているわ。
そう思って受け身体制に入った私の目の前でアルフレッド第二王子の手が止まった。
「アルフレッド、女性に手を上げるとは……まして真偽も確かめずにそんなことをするようでは資質を問われるぞ」
リアンナ・ウェルズ公爵令嬢も誰もが驚いて振り返った。
「「「「アスラン第一王子」」」」
私は目を見開くと首を傾げた。
「あれ? ここで助けに入ってくるんですか?」
そう考えたもののここはもう一押ししようと息を吸い込んだ。
「アスラン第一王子……アルフレッド王子が悪いのではなく……きっとリアンナ・ウェルズ公爵令嬢を庇うために」
私はそう言って両手で顔を伏せた。
それにクリスティーヌ・カーライル伯爵令嬢が唇を開いた。
「僭越ながらアスラン第一王子は何もご存じないので……このマルガリータ・ウィルソン子爵令嬢があることないことを魔法学校で広めているんです。しかもリアンナ・ウェルズ公爵令嬢の婚約者であるアルフレッド王子を我が物のように」
「だが、真偽を確かめずに女性を叩こうとするのは王族男子の行動として問題がある。私は父に弟アルフレッドの王位継承についてまだ問題あるというつもりだ」
全員が目を見開いてアスラン第一王子を見つめた。
いや、私も見つめた。
いやいやいや、展開が早過ぎて大丈夫ですか!? アスラン第一王子。
呆然とする私の手をアスラン第一王子は掴んだ。
「大丈夫ですか? マルガリータ・ウィルソン子爵令嬢。私の部屋で手当てをしましょう」
私は頷くしか出来ず『アスラン第一王子のが上手!』と心で叫ぶしかできなかった。




