残念ポジ ヒロインらしく
「残念だったね」
魔法学校の校舎の一角にある王族用の部屋の中でタオルと取り寄せてくれた着替えの服を渡されて言われた。
高い天井に他の学生と違って広い部屋。
この部屋と似た部屋を私はゲームで知っている。
ヒロインが第二王子アルフレッドに連れられて入った部屋だ。
しかし、私の意識はアスラン第一王子の言った『残念だったね』と言う言葉に向けられていた。
え? 何が残念だったの?? 普通は第一王子に助けられたなら出ない言葉だし、それ以上に助けた第一王子のセリフじゃないよね。
私は服を着替えて王子の前に進んだ。
「あの助けていただきありがとうございます」
アスラン第一王子はにっこり笑った。
「構わないよ。あの、君はあそこで第二王子と出会うはずだったんだけど……その第二王子は元々の婚約者であるウェルズ公爵の娘であるリアンナに夢中なんだ。死ぬはずだった俺の命も助けてくれたからね」
「はぁ…」
私はそんな気がしてました、と心で呟いた。
お察しである。
「それで俺は本来もその悪役令嬢が二周目でも王にならない方が良いと思うんだ」
「は、あ……」
私はもしかしてと感じてしまった。
「どうだろう、俺は王位継承権をはく奪された方が良いと思っている。力になってもらえないだろうか?」
私は先ほどからグルグル渦巻いていた考えが収まらず疑問を口にした。
「もしかして、アスラン第一王子も……転生者ですか?」
アスラン第一王子は目を見開き私を凝視した。
「やっぱり、君も転生者? なんだよね?」
「はい、私ももしかしたら残念ヒロインとして転生したのかもと思いました」
「俺が残念だったねと言った時に君は普通に受け入れていたから、もしかしてと思ってた」
アスラン第一王子はアハハと笑って私を見た。
その笑顔が生前私が望んで望んでどうしても手に入れれなかった兄の姿に重なって見えた。
私は生前NNGグループのアイドルだった。
サブポジションだったけどファンは多くいたし仕事も順調でドラマや映画にも出てた。
所謂イージー人生だった。
元々は両親を事故で早くに亡くして孤児で兄と二人で養護施設で暮らしていた。でも子役でスカウトされて順調人生だった。
兄と二人。
兄はとても優しくて私を大切にしてくれた。
だからサブポジションでも、大変なスケジュールでも頑張った。
何でも手に入るイージー人生だと皆に思われていたけど、一番欲しいモノが絶対に手に入らない人生だった。
私は……兄を男性として愛してしまっていた。
そんな兄は私に少しでも迷惑をかけないようにと大学に通いながら工事現場の夜間のアルバイトをしていて事故に巻き込まれて死んでしまった。
愛してはいけない人を愛してしまった私の罪。
そして、私は……この世界に転生したのだ残念ヒロインポジションとして。
「やっぱりいつも私が望むものは手に入らない運命なんだわ」
ヒロインの最愛の人は第二王子アルフレッド。けれど彼はもう転生した悪役令嬢と恋仲にある。これまで読んだ小説から考えるときっと二人で乗り越えて結婚ゴールを決めるんだわ。
私は残念ヒロインとして行動しなければならない。
「アスラン第一王子はどうしたいんですか?」
私はそう聞いた。
兄に似た笑い方をするこの人を残念ヒロインらしく悪役令嬢に断罪されながら助けることに決めた。
アスラン第一王子は少し考えて唇を開いた。
「そうだね、アルフレッドとリアンナ嬢に王位を譲って乙女ゲームの『光の聖女 オーレリアン王国戦記』の二周目らしいハッピーエンドの形にしたいね。俺は元々病弱で死ぬ予定だったから帝王学とか学んでないし」
「そうだったんですか」
私はう~んと悩んでハッとした。
「あの、そうしたら。よくある第二周目のヒロインらしく私が悪役令嬢を反対に悪口とか言って空振り意地悪をして私とアスラン王子は手を組んで共に断罪されてマルガリータのウィルソン子爵の領地へ逃げ去るというのはいかがですか?」
「でも、君にそんな悪いことをさせるのは……それに君は嫌われ役になるし」
「ストーリーが進めば同じですし! そんなに酷い悪口言いません。私は大丈夫ですから任せてください!」
こうして私とアスラン第一王子の残念ヒロイン断罪ルートを作成することにした。




