お互いの立場
「こうやってお話するのは初めてね。本当にごめんなさい」
リアンナ・ウェルズ公爵令嬢がそう言って頭を下げた。
私も転生者。
彼女も転生者。
だから分かるものがある。
「転生者でしょ? だからアスラン王子の死も知っていて助ける方法を知っていて助けた。それでヒロインのポジションについた」
先を知っている力を使って。
彼女は静かに頷いた。
「貴方も転生者なら私の運命を知っていると思うの。リアンナ・ウェルズは元々見栄っ張りで意地悪な性格をしていてアルフレッド王子の許嫁だったけど聖女のヒロインである貴方と恋仲になって捨てられて……どのルートでも追放か処刑されるかだったでしょ? 貴方のヒロインを奪うつもりじゃなかったの。ただ断罪エンドはイヤで……アルフレッド王子に嫌われなければ皆に優しくすれば助かると思ったの。それがヒロインである貴方をこんな風にしてしまうなんて」
……本当にごめんなさい! ……
私は急に笑いが込み上がりくすくすと笑った。
何か胸の奥にあった石が落ちて溶けて行った感じがする。考えればそうよね。
公式では悪役令嬢だけど、今は彼女だわ。転生した彼女の人生だわ。
先の追放や断罪エンドを知っていたら変えたくなる。そして彼女は彼女なりに努力したんだもの。
それに。
「私はアルフレッド王子が好きなわけでも、他の攻略対象の面々が好きなわけでもないわ。だから残念ヒロインポジになったけど……もう良いの。私も決まり決まったヒロインを演じようとしていた」
私は笑って告げて、不意にハッとした。
「あ! ちょっと待って……貴方、リアンナの断罪エンドはしたことあるのよね?」
リアンナ・ウェルズは頷いて、はっとした。
「ああ! 確か……リアンナがオリバー・ノースと手を組んで呪いの石を置いてヒロインとアルフレッドを呪い殺そうとしての断罪エンド!」
私は慌てて彼女の手を掴んだ。
「ね、その時の呪いの石の陣覚えている? あれ、一瞬だったから私覚えてないの。わっか出たー、聖女の魔力で抑えたーって感じで……それに貴方、今回はオリバー・ノースとは?」
リアンナも顔を顰めた。
「私も同じよ。陣が出たけどそんな真剣に見てなかったわ。それにオリバー・ノースは姿を見せなかった。そう言えば、貴方のこと私の噂を立てたって責めたでしょ? 本当はベータクラスのマリー・チェスト男爵令嬢だったの。噂を流していたの。それが分かって彼女は魔法学校を辞めたんだけど……そう言えばエリザベスが彼女が白銀の髪の彫りの深い顔立ちの男と歩いているのを見たって……」
私とリアンナは顔を見合わせた。
「「白銀の髪!! まさか」」
私はアスランに顔を向けた。
「アスラン、オリバー・ノースを知っているでしょ? もしかしたらあの男がデスサイス病の呪の陣を作っているのかもしれないわ」
リアンナは驚いた表情で私に告げた。
「え!? どういうこと? もしかして、アスラン第一王子は転生者だったの?」
それにアスランは顔を顰めた。
「ああ、だが。俺はリアンナ・ウェルズの追放ルートしか知らないんだ。妹の横から見ていただけだから……オリバー・ノースと言う奴は……」
リアンナは笑むと私を見た。
「マルガリータとアスラン第一王子は王都の人々を助けて! 私には聖女の力はないの。貴方が立ち去って回避する方法やロココの薬剤以外の本当に治す方法を調べたけれど……やはり最後は貴方の聖女の力が必要なの。オリバー・ノースとマリー・チェストは私たちが探すわ」
私は笑顔で頷いた。
「わかったわ、そこは任せて」
もう、迷いはなかった。
考えれば私はアルフレッド王子を愛していたわけじゃない。マルガリータと言う私の一番は彼じゃないわ。
きっと、もう側にいて私の一番になってる。
私はアスランを見て手を握りしめた。
「アスラン、がんばるわ」
アスランも頷いた。




