悪役令嬢リアンナ・ウェルズ
私が馬車を降りて話をしようと腰を浮かせた瞬間にアスランが手で制止して馬車から降りた。
番兵はアスランを見るとハッと目を見開いた。
「アスラン……さま」
アスランが廃嫡されたことは王都内に広がっているのだろう。だからと言って無下にあしらうことも出来ないので『アスランさま』になったに違いない。
アスランは微笑んで頷いた。
「俺たちを通してもらえるだろ? それと王都内がどうなっているか聞いておきたい」
それに番兵は頭を垂れた。
「現在、王都内では3カ所に分かれてデスサイス病にかかった人々を集め、ロココの実を利用した薬剤で何とか症状を抑えている状態です。ウェルズ公爵家のリアンナさまとアルフレッド第二王子が予見していたように素早く対応され死者は出ておりませんが……毎日、病人が増えている状態で」
病人が増えている?
私はチラリとアスランを見た。ウィルソン子爵家の領地や他の領地は発症する者がいなくなっている。
恐らく転生者のリアンナ・ウェルズ公爵令嬢ならデスサイス病が病人と触れあうことで広がると知っているはず。だからこそかかった人を集めているのに……まさか。
アスランを見るとアスランも何かを感じたように私を見た。
「恐らく病原を振りまいている人間がいる。そいつを掴まえない限りは王都での鎮静は無理だ。もしかしたらそれを考えて王都を閉めているのかもしれない」
私も頷いた。
アスランは番兵を見ると指示を出した。
「今から言うことを王城にいる王とアルフレッドに伝えてもらいたい」
番兵は頷くと大急ぎで王都の中へと入り姿を消した。
アスランは私を見ると心配そうに唇を開いた。
「マルガリータ、恐らく患者の数はこれまでと段違いになると思う。君にかなり無理を強いることになる」
「大丈夫。私、この日の為に魔力を増強してきたから」
今はもう迷いはなかった。
助けられる命を助ける。他の誰かがその役をしていたら私はその人を助ける役で良い。
アスランはにこやかに笑むと私の頭を撫でた。
「マルガリータならできる」
私は頷いた。
そして、番兵と共に一人の令嬢が姿を見せた。
リアンナ・ウェルズ公爵令嬢だ。




