世の中には良くある残念ポジ
降り注ぐ温かな雨。
その雫を受けて小さく揺れる緑の葉。
枝葉を伸ばすオーレリアン王国魔法学校の中庭で生える一本の木の下。
私はマルガリータ・ウィルソン……ウィルソン子爵の一人娘でこの世界を描いた乙女ゲーム『光の聖女 オーレリアン王国戦記』のヒロイン。
ゲームはここで将来国王になる第二王子アルフレッドと出会うことから始まる。
つまり運命の出会いオープニング。
のはずが、雨に曇る視界を校舎の方に向けるとここで出会い王家の呪いを発症してマルガリータの聖女の力を発現させるはずの第二王子アルフレッドが冷めた目で見つめていた。
しかもゲームの攻略対象のはずの美形騎士団長キリア、陰のある天才宰相ルーアンなども何の感慨もない眼で見ている。
あれ? あれれ?
私はふっとアルフレッドの隣に立ち少し蒼褪めた表情で彼の後ろに隠れる悪役令嬢のはずのリアンナ・ウェルズ公爵令嬢を見て気付いてしまった。
まさか、これって生前よく見ていた『悪役令嬢に転生した私は死亡フラグをバッキバッキにしちゃって幸せになります』とか『悪役令嬢第二の人生でも悪役令嬢らしくがんばります』とかそういう世界なのかもしれない。
所謂、悪役令嬢がヒロインでみんなに愛される世界。
私は雨の中でずぶ濡れになりながら小さく息を吐き出した。
「って事は、私は聖女にもなれず転生した悪役令嬢のリアンナに意地悪をして断罪か和解するかのヒロインらしくない残念ポジのヒロイン役なんだわ」
知ってた。
生前残念ポジの人間って転生しても残念ポジなんだよね。
雨の中で晒しものになっている私は生前でも良くやっていた真っ直ぐ背を張ってにっこりと笑顔を見せた。
NNGアイドルチームのサブポジだった亜久里るりの残念実力を見せてあげないとね。
そう思った私にかかっていた雨が突然途切れた。
「風邪、引くよ」
私は顔を上げて目を見開いた。
大きめの魔法コートが頭にかかり、アルフレッド王子に良く似た、でも穏やかな感じの人物が笑みを見せて立っていた。
「あれ? この人……確かオープニングの1年前に病気で亡くなったほぼモブの第一王子アスラン……じゃないかしら?」
そう、病死したはずのアスラン第一王子が優しい笑みを浮かべて立っていた。




