表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/25

○エリさんという人

 酒を煽った後、グラスを叩きつける、砕けるガラス。

エリは自室の中で頭を抱える。


ありえない!

ありえない!

ありえない!

ありえない!


黒鳥会にはなんの痕跡もなかった!

なんで!どうして!


前の写真は私服だったから油断した、まさか黒鳥会に居たなんて!


ひと通り暴れた自室はものが散乱している。

見逃すはずがない、でも結果は別だ。


悔しさと怒りが込み上げてくる。


「あ、やっぱり….」


サヤカが鍵を開けて、息を切らしながら入ってくる。今回はティオも一緒だ。


「サヤカぁ….」

グシャグシャになったエリがサヤカに抱きつき大声で泣く、サヤカは優しく受け止め、ただ背中を優しく撫でるのであった。


---


「ごめんね、片付けさせちゃって….まぁ、前よりは酷くないから、ティオさん、びっくりしちゃった?」


サヤカはティオに言う、ひと通り泣き止んだエリはサヤカに後ろからくっついてリビングの床に座っている。

対面にティオが座り、黙っている。


「いいえ、なにも、自分には無いものですので」


無いものはない、プログラム時代にはなかなか言えなかったセリフを言う、言えなかったのはプライドか、設定か。しかし今はそれが恥でもなんでもないことは感覚でわかる。


(不思議なものだ)


エリがくっついているのも自身を安心させる行為だと、わかる。


お前さんは、ずいぶんと感覚派なんだなとシンが自分に言ったことを思い出す。


「ごめんね、なんとなくで、ついて来てもらって….」

エリにくっつかれているため動けないサヤカからの謝罪が続く。


サヤカの後ろからじっと声も出さずエリがこちらを見ている。


「ここで言うのは、確かに不適切な気がしますが、いただいた、その、お、お姉ちゃんファイルの分析結果とか、今後の話とか、その、、、」


自分でもびっくりするくらい声がまともに出ない。恥ずかしさなのか、怖さなのか、声を出すと言う行為がこんなにもしんどいのか。


自分の手が震えている。なぜかは全くわからない。

ここで話すべきか、そうでないのか。自分の中でせめぎ合う何かがいる。

自分が話すことで、現状を打破できる可能性、それと並行していう事で何かが壊れてしまうかもしれない恐怖、そうか、これは恐怖なのか?


エリを見る、彼女は相変わらずじっとこちらを見ている、警戒というのが正しいのか、敵意と好意の分水嶺のような目つきだった。


サヤカは背中からの気配を感じつつも、こちらが話そうとする事に対しての嫌悪感はない。


感情とは難しい、わからない。自分がこれから話そうとする事自体は間違ってはいないハズだが、何かこうよくわからない何かが自分の中にいる、鬱陶しくて仕方ない。

しかし、喋って良いものか、わからなくなってしまっている。


「良いよ、教えて」


口火を切ったのはエリだった、好意と敵意の分水嶺のままではあるが、明らかに雰囲気は穏やかになっている。

サヤカもその気配を察してか、頷いて、こちらに促す。


話すことを許されたという事実が、手の震えを納めさせた。改めて最終演算をして、プレゼンを行う事とした。


「双子なのに、お姉ちゃんと妹と意識がはっきりしているわけですが、エリさんって昔病弱だったんですね、生まれてすぐ隔離だったり、入退院だったり、逆で健康的だったエマさんにずいぶんとお世話になったようですね。それでエマさんも私が「お姉ちゃん」だからといろいろしてもらったという事ですね。」

エリは黙って頷く、サヤカも知ってる話なのか、うなづいて聞いていた。

「人は自分に似たような人を好きになる、という話があって、エリさんが自分に似たエマさんの事を好きになるのはあり得る話ですね、正直エリさんもだいぶお綺麗ですからね」


なんだろう、お前がいうなって言う顔しないでほしいなぁ、自分なんでいわゆるモブキャラなのに。と、清楚系KPOPアイドルが非地雷系隠キャ女子大生フリしてるだけの役満スタイルみたいな格好しているティオは思うが今は関係ない話なので続ける。


「ただ、大きく違うのが瞳の色です。でもそこがエリさんが一番好きなところみたいですね、ポエムにもずいぶんと青い瞳は出て来ました。本当にエリさんはエマさんの青い瞳が大好きなんですね、ご自身の灰色の瞳よりも。そしてエマさんの穏やかな目つきも、ご自身の目つきとは真逆だから」


「そうね、その通りよ、でも、多分誰だってあの瞳に見つめられば、恋に落ちるわ」

諦めとも、憧れとも、失望とも、恋とも、失恋ともとれる声色でエリは言う。


「だから、カラーコンタクトレンズ含めて青い瞳の人を中心に調べ上げたというわけですね」

そうね、と返事する、自覚はしているようだ。


「それで担当直入に言います」

ティオちゃん、そのイントネーションなら担当だよ、多分ほんとは短刀だと思うよ。とサヤカが呼びかけるが気にしない。


「今回の女性はエマの網膜とは言えないですが、確信がありません。網膜の画像さえれに入ればなんとかなると思います」


「そうよ、でも、誰が行く、、、」

エリは途中で言い淀み、サヤカは目を見張る。


「私が、確認して来ます、この自身の目で」

また、手が震えてきた。


----


「エライ大見目切りましたなぁ、えぇ?」

ティオの顔を見ながら、ドチャクソ美少女(男性)のシンがキレている。しかし、その声には心配という色が強い。監査官居室のソファで2人は並んで話している。

昨晩の出来事の後、顔に傷をつけたティオが出勤してきて、慌てたシンが事情を聞いていた。


「そら、エリもブチギレってわけやな、こっちがキレる暇あらへんがな、ほんま。」

美少女モードなのに地の関西弁が止まらないシン。

額に包帯を巻き、右頬を真っ赤にしたティオは俯いている。

 自分は与えられた情報から正解を提示したはずだ、ティオはもう一度整理する。

写真の女性の正体を突き止めるなら、エリは以前潜入捜査で顔が割れているから不適、

それでも、エリがもう一度潜入捜査するべきか?それはとても危険だ。なら、顔が割れてないサヤカが行くか、いや彼女では画像の分析ができない、エリなら見た瞬間気配でそれがエマが否かを判断出来るが、サヤカにはエマのデータがない、だけら、目さえ見れればいい、画像さえわかればいい、私がが行く。それが正解だったはず。


 しかし、自身の目でと言った瞬間に飛んできたのはグラスだった。額に当たり、メガネも飛んで行った、振り返ったところを右頬を平手撃ちされた。

言ってはいけないことを言ったつもりは一切なかった、エリに対しては最大限の配慮したはずだった。額から血が流れ、右頬がジンジンと痛む。

 声を出したのはサヤカだった、エリを一喝し、ティオの手当を行う。

「ごめんなさい、傷は残らない様にするから」

 と、テキパキと治療される、そしてそこからの記憶は曖昧だ、サヤカに送ってもらった気がするが、いつの間にか、自室にいた。グラスが頭部を直撃したせいで記憶の定着が甘かったのだろう。


「そんでな、どうやって潜入するつもりやったん?邪魔するでぇ、見せてやぁ、ではすまんのよ」

呆れたようにシンが言う、あ、あのそれは、

「これから考えるつもりでした…」

誰が何をすれば、写真の女性の正体を掴めるか、その点においての正解は提示した、ただどの様にという話はまだ先の話ではなかったのか。


「はぁ、ティオ、お前、ずいぶんとまぁ、急いだんやな?」

急ぐ?何を?驚き顔を上げてシンを見る。

シンは何かを感じたらしく、穏やかな表情になっている。

あ、元の喋りのままやったな、と言い、咳払いをする。こう言う時にシンは姿形に見合った口調で言ってくる、人が理解しやすいようにという彼なりの配慮だろう。

「ティオちゃん、大事なこと忘れてるわ、みんなあなたの事、心配してるのよ」

心配される様なことがあるのか?心配する相手を殴ったりはしないのでは?

ふふっ、怪我してる貴方には悪いけど、とシンは軽く笑ってから言う。

「エリちゃんは挨拶がてら私を殴ってくるような娘よ、感情表現なんか得意じゃないわよ」


人間って難しいなぁ、とティオは強く感じた。なぜだか涙が溢れてきた。

エリも、サヤカも、シンも、誰も自分のことを道具としては見ていないんだ。

嬉しいやら悲しいやら、なんだかわからない。

「あの、シンさん、私にはいつもの調子で構いません、なんか調子が狂います。」

なんで今こんな事いうのか、自分の口から出た言葉も実際よくわからなかった。


訳がわからないが、涙が溢れて止まらない、エリが、サヤカが、シンが、怖かったのか、優しかったのか、自分では処理が出来なくなってしまった。


ただ声をあげて泣くしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ