○エマさんの気配
「シンさん、私は怒っています。」
おお、どうした、薮から棒に、と書類を整理するドチャクソ美少女(男性)のシンは顔を上げ、続ける。
「薮から棒にっていうとな、あんな、昔な、薮っていういっくら頑張っても勝ち星に恵まれへ」
「黙ってください。」
エリに感化されすっかり言葉で刺す、ということができる様になったティオが、シンのデスク脇で仁王立ちしている。
「何ですか、何でもかんでもカフェ・ド・クオモって!エマさんの捜査ちっともやってないじゃないですか!」
プンプンっていう感じがよく似合う、可愛い非地雷系隠キャ女子大学生様なティオがいう、黒髪おさげ、黒縁メガネ、グレーのトレーナー、黒のミニスカート、ニーソという役満スタイルである。神は随分と性癖が歪んでいる。
「せやかてティオな、結局誰がっていうところがわからんねん、ナツメもトラウマでその部分だけ完全に記憶喪失、残った唯一証拠のコンバットナイフについてた痕跡もエマとナツメ以外DNA無かってんで?」
そうなのだ、言うなれば手詰まりなんだ。事件に関与しないことが分かったので遺品扱いとしてエリが持っているのだ、関係があったら証拠保全されているはずだ。
当時の2人の追跡データもわからない、現場もどこかわからない。手詰まりというか無理ゲーである。
「でも最近何でわざとらしく関係者洗ってるんですか?」
仁王立ちから体勢を変えずに聞く
「勘や、勘。」
シンは頭の後ろで手を組み見上げる
「そういえばな、カンって言えばな、昔W杯でな、オリバーカーンってやつがな」
「口にハイチュウ詰めますよ、良い加減にしてください。」
ゴソゴソカバンを漁るティオに、ごめんてと謝るシン。
「エマは今近くにおるねん多分な。」
シンのデータ入力はいつも癖がある。ひっとつもわからない、この人は結局エリこと好きか嫌いかも明言してない。元プログラム端末であるティオも歪んだ認知で進んでいく。
「せやから、耐久テストじゃないけど、エマっぽいなんかがふわっと出たきた時にどんだけ正気を保てるかっていう話や。」
それを素直にいえば良いじゃないですか。とティオは返すが
「いきなりエリにそれ言ってどうなると思う?」
全てをぶっちぎって探すだろう、彼女に纏っている寂しさはあの甘いお菓子でもどうにもならない。
「ええ顔する様になったな、ほんま、そんで君や、君が急にこないなことになるねんから、これは絶対なんかあるぞって」
シンは席を立ち、居室の打ち合わせテーブルへ向かう、ティオもトコトコとついて行き、シンの隣に座る。
おじさんの横はどうかと思うわ、効率です。一連のやり取りを終えて、ホログラム通話を起動する。相手はエリの上司だった。
「やっぱりなぁ、なんか掴んでるなこりゃ。でっかいぞこの釣り針は….」
彼が提示した画像、それはエマによく似た女性の姿だった。
「体格は変わるにしろ、画像からみる骨格については一致率98%」
いや、シンが、遮る
「画像はいくらでもいじれるから一回モノホンを見たい。エリには言ってあるのか」
当然だとういう返事。
「こらぁ思ったより早いな、これはぁ」
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「意外?」
エリがサヤカに問いかける。
「えぇ、だってエマ先輩に似てるって人が、」
しどろもどろにいうサヤカにエリは優しく言う
「ずっとお姉ちゃんを追いかけてきたから、似てるって言うだけで期待しちゃいけないって分かってるわよ。」
そ、そうですか。と酷く安堵するサヤカをみて、今までずいぶんと酷い事したなと、サヤカがバディとなってからのやり取りを省みるエリ。
「あなたのおかげよ」と軽く頭撫でて執務室を後にするエリ。
あ、もう今日は帰るんですか?と言うサヤカの問いに軽く手振って家路に着く。
執務室を出たエリは足場に職場を後にする。その足取りは早い。
少し息が切れるくらいだった。部屋に帰る。
荷物もそぞろに1枚の写真を取り出し壁に貼る。
壁一面に青髪ストレートヘアの女性の写真が貼ってある、その1枚1枚に日付と大きな赤字のバツ印。
貼り付けた写真を食い入る様に、舐め尽くす様にみる。
「今度こそ、あぁ、お姉ちゃん、ついに会えるよぉ」
歓喜を超えたもはや性的な快感に近い恍惚、薄暗い部屋の真ん中で膝をつき両手で頬を撫でる。
待っていた!待っていた!足掻いた甲斐があった。でもまだよ!再会の甘美はまだここからよ!だから、そのための力を、溜めるのよ。
昼間の晴れが嘘の様に、外では大雨が降り出した。




